
第一章
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・展示館
ガラスケースの前に立っている渚(なぎさ)
中には春(はる)が作った『渚』がある
『1983年10月7日、最優秀賞。作、永久(ながひさ)春』
と書かれている
その隣に置かれている渚が描いた『春』が飾られている
『1984年4月16日、最優秀賞。作、渚隼人(はやと)』
と書かれている
渚M 「五年前、心から愛した人がいた」
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・展示館
出口に向かって歩いている渚
渚M 「あの別れの日から、彼が今どこで何をしていて、
元気でやっているのかも俺は知らない」
渚M 「彼はもうここには戻らないと言った。
それなのに、俺は夏がくるたびに、
彼のことを思い出す。
あの指先の体温を、
あの力強い腕の感触を、
あの、美しい目を──」
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・展示館前
正面玄関から外に出る
夏の厳しい日差しに空を見上げる渚
渚M 「終わったはずのこの思いは、五年経った今でも
ずっと宙を舞って地に足をつけられないでいる」
セミの声
渚 「……」
道の先の陽炎が舞う中
春の姿を見る
渚M 「あの日から一度も忘れたことなんかなかった──」
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・会場裏
生徒A「それで幻まで見たってわけですか」
渚 「いや、まぁ、そうだけど……」
生徒A、その他生徒二人、渚が座っている
生徒B「夏の暑さにでもやられたんじゃないですか?
今頃になって現れますかねぇ」
渚 「俺だって…」
生徒A「せんせの気持ちも分からんでもないですよ。
この五年間、正直見てられなったし」
渚 「……」
生徒C「でもなぁ。私分からないんですよねー。
どうして二人とも好きだってのに、別れなきゃなんないのか…。
私だったら待っててって言うな。だって先生待ってるって言ったんですよね?」
生徒A「ちっちっちっ。分かってないなぁ」
生徒C「えぇ?」
生徒A「あたしもね、あの直後はそう思ってたよ。あの時せんせに言ったもん、
どうして追いかけなかったんですかって。
それほど好きなら全部捨ててでも追いかけるべきだって」
生徒C「やっぱり」
生徒A「うん。でもね、それって違うんだよね。
というか、永久春には頭上がらないわ。今の歳になってやっと分かった」
生徒C「どういう意味ですか?」
生徒A「永久春も心の奥底では先生を連れ去ってでも行きたかったんだよ。
でもそれは絶対出来なかった」
生徒C「うーん」
生徒A「まだ自分は成人もしてない子供で、今は認められてても、
この先どうなるかわかんない。
ましてやまったく安定なんかしてない道だよ。
そんな道を行く自分にせんせにすべてを捨てて付いてきてなんか言えなかった。
あたしがその頃だったら何も考えずにきっと付いてきてって言ったよ。
あれだけ実力あればせんせの一人や二人養ってやる!って思ったと思う。
でも永久春は大人だったんだろうね。
それにせんせもね」
渚 「……」
生徒C「なるほど……。あーでも私にはまだそんなこと考えられないなぁ。
やっぱり好きな人とはずっと一緒にいたいし…」
生徒B「現に今どうしてるかもまったくわからないですしね。
イタリアの賞に名前も出ない。
音沙汰なし。生きてるかどうかもわかんない」
渚 「そういうこと言う?」
生徒B「でも先生幻みたんでしょう?」
渚 「うーん……」
渚M 「たしかにそうだ。
彼はあれ以来、本当に生きているのかも分からないほど
消息不明になってしまっている。
元気でやっているのか…それとも…」
生徒A「せんせ分かりやすいから見てるこっちが辛くなってくるんですよ。
せっかくこんな大きな個展開けてるんですからもっと元気にしてくださいよね」
渚 「いや、俺はそんなにわかりやすくないと思うよ?
君が鋭いんだ」
生徒A「えぇ!?何を言ってるんだかこの人は!
あのデッサンの授業中のせんせ見てたら誰でもわかりますよ…」
生徒B「そんなに分かりやすかったんですか?」
渚 「そんなこと──」
生徒A「分かりやすいもなにも垂れ流しだったよ。
目が違うもん目が!
それにあのデッサンは別格だった」
生徒C「あぁ!私もそのデッサン見たことあります!
あの事務室に飾ってあったあれでしょう?
びっくりしました私も」
生徒A「あたしこれでもせんせのファンだったんですよ?
あの時から言ってたじゃないですか。
あのデッサンはホントに愛がこもってたもん」
渚 「……」
照れている渚
そこへ生徒Dが入ってくる
生徒D「うぃっす」
渚 「おぉ、久しぶり。君も来てくれたんだ」
生徒D「そりゃ先生の個展ですもん。来ますよ。
でも先生の絵ってどうしてだかこう、エロ本見てるような気分になるんですよね…」
渚 「どういう意味だ…」
生徒B「あ、それ私も分かります」
渚 「なっ…今回ヌードはメインしかないぞ」
生徒D「いや、そうじゃなくてね。なんか色気があるというかなんというか…。
そんなことより、あのメインの『時枷(ときかせ)』
あのモデルって誰なんですか?」
生徒A「あ、それあたしも知りたかった!」
生徒C「綺麗ですよね…あんな男性見たことないです」
渚 「え?気づかなかった?君たちも多分知ってると思うけど…」
生徒B「?」
渚 「哉家俊祐(かないえしゅんすけ)なんだけ──」
生徒全「哉家俊祐ぇ!?」
全員立ち上がる
渚 「あ、あぁ…」
生徒D「あ、あの…あの服飾科の……帝王…が…」
生徒A「あたしでも知ってるよ!」
生徒B「確かに綺麗だけど!」
生徒C「あの人があれ!?」
渚 「そんなに…?」
生徒全「もう一回見てくる!」
生徒全員会場へ出て行く
渚 「騒ぐなよ……」
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・会場
一番奥に飾ってある『時枷』
裸で横たわっている俊祐が描かれている
目は黒い布で隠されている
その絵を囲っている生徒全員
生徒A「まさかこれが…」
生徒D「あの哉家…?」
生徒B「あの人こんな顔できるんだ…」
生徒C「綺麗ー…」
俊祐 「そんなに俺が珍しいか」
全員振り返る
俊祐 「どうでもいいからさ、先生どこ?」
生徒全「……」
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・会場裏
生徒A「食ったの…?」
渚 「えぇ!?何を!?」
生徒A「せんせ…永久春のこと忘れられないとか言っておいてちゃっかり…」
渚 「ど、どういう意味だよ!」
生徒A「だってせんせ、モデルに手を出す──」
渚 「人聞きの悪いこと言うな!」
俊祐 「へぇ、やっぱり忘れられないんだ?永久のこと」
どかっと座っている俊祐
渚 「……」
生徒A「あぁ、なるほどね。でも残念だったね!」
生徒A、俊祐の肩に手を置く
生徒A「せんせがただのバイだったらあんたにも望みあっただろうけど、
永久春を忘れない限りこの人のことは諦めた方がいいよ」
肩をポンポン叩く
俊祐 「大きなお世話だ」
手を払う
生徒B「まぁでも、幻見てるようじゃねぇ…」
俊祐 「へぇ、幻ね…」
渚 「な、なんだよ…」
俊祐、笑う
俊祐 「俺さっき見たよ。その幻とやらを」
生徒全「えぇ!?」
渚 「ホントに?どこで?」
俊祐 「ここで」
生徒A「み、見間違いじゃないの…?」
俊祐 「俺が見間違うはずねぇよ。こんなに覚えてる男あいつしかいねぇ」
渚 「嘘だろ?」
俊祐 「疑うんなら見てくれば?いけ好かないことにしっかり記帳もしてやがったぞ」
生徒A「せんせっ…」
渚 「っ──」
渚、出て行く
俊祐 「……」
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・会場
来客帳簿を見る渚
渚 「……そんな…」
春の名前を見つける
渚M 「名前を見ても信じられなかった。
でもあの時と同じ字で書かれているこの名前が、
彼の手で書かれたのだとしても、
どんな顔して会えばいいんだ……。
終わらせたはずの気持ちを引きずったまま、
彼には会えない…」
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・居酒屋
渚、俊祐、生徒Aが飲んでいる
生徒A「でもさぁ、戻って来たってことは、やっぱりせんせ迎えに来たとしか思えないね。
あたしは」
俊祐 「そうかぁ?いくらあっちに住んでてもいろんな用事あるだろうが。
あいつがもう戻ってこないって言ったのは、先生のところにってことだろ?」
渚 「……」
生徒A「あんたねぇ、あたしはあんたの二個先輩なのよ〜?
話し方に気をつけなさいよ」
俊祐 「はいはい」
生徒A「なっ!やっぱりいけ好かない奴なのよあんたは!
いくら売れてるからって!」
渚 「まぁまぁ…」
生徒A「せんせもせんせですよ!五年もうじうじ考えてるほどなら
会いに行けばいいじゃないですか!
会いに行ってやっぱり友達だって言われたら諦めなさいよ!」
俊祐 「先生、この女どうにかしろよ…」
渚 「いやぁ…ははは…」
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・居酒屋
生徒A寝ている
俊祐 「そんなに永久のこと好きだったの?」
渚 「……うん…」
俊祐 「そりゃそうだろうな、好きじゃなかったら男になんか手出さねぇか…」
俊祐、煙草に火をつける
俊祐 「俺あいつのこと大っ嫌いだった」
渚 「え…?」
俊祐 「大学入って初めてすげぇと思った奴だった。
大学のインフォメーションに展示されてた人形が
すっげぇ綺麗な服着てたんだよ。
それ作ったのがあいつだって知って、どれだけ凄い服飾の先輩なんだって思ってた」
渚 「あぁ…そういう…」
俊祐 「そうだよ。そしたらどうだ。
服飾専門じゃねぇって。なんでだよって思ってさ。
悔しかったな」
渚 「俺も絵では勝てなかったよ。はははっ」
俊祐 「知ってるよ。『青空』だろ?」
渚 「知ってたのか」
俊祐 「あの頃俺は嫌いで嫌いで仕方なくてあいつの情報ならなんでも知ってたんだよ」
渚 「それって……」
俊祐 「馬鹿なこと言うなよ?」
渚 「……」
俊祐 「あの頃の俺、あの人形の服を超えることしか頭になかった。
肝心の服飾科の先輩に超えたいと思う奴なんかいなかったからな」
渚 「だから帝王……」
俊祐、渚を睨む
渚 「ごめん…」
俊祐 「今でも忘れないよ。あんな綺麗な服。忘れたくても忘れられねぇ。
俺はそれだけを見て服を作り続けてたんだ。
でも一番いい賞を貰ったって嬉しくなかった」
渚 「……」
俊祐 「どうしても超えらんなくてさ。なんでなんだって。
周りは褒めてくれるのに、俺の中では納得いかねぇんだ。
あの人形には適いもしない」
渚 「うん」
俊祐 「それであの『渚』だよ。
悩んでる俺にまだ追い討ちかけんのかって。
ビックリして笑った」
煙草を吸いながら笑う俊祐
俊祐 「あんな綺麗なドレス見たこともねぇ。
それになんだよあの幸せそうな表情。
あれ全部あいつが作ったなんか信じられねぇよ。
どんだけ天才なんだよってな」
渚 「あぁ、彼も自分の才能を恨んでるって言ってたな」
笑う
俊祐 「それなのに、いつの間にかいなくなってんだもん。
追い求めるもんも何もなくしてさ。
どうしていいかわかんなかったな、あの頃」
渚 「あ、俺知ってるよ。あの頃の君のこと」
俊祐 「えぇ?」
渚 「君のお姉さんに聞いたよ。
弟がどうしようもなく暴君になりそうで怖いんだって」
笑いながら話す
俊祐 「クソ姉貴…」
渚 「あの歳であんな才能開花されちゃ姉としてどうすればいいかわかんないってさ」
微笑む渚
俊祐 「……」
渚 「君は彼のお陰で成長していってるんだよね。
驚くほど」
俊祐 「……」
渚 「でも俺は分からないんだ。あの後夢だった賞を手にして、
今でもこんな風に個展だって開けてる。
講師をしながら仕事だってもらえてるけど、それでも成長できたのか分からない。
どこかでやっぱり彼のこと考えてて、
今になってあの時言えなかった言葉を言いたくてしかたないんだ……」
俊祐 「……」
渚 「前を見て進もうとしてるのに、足を出しても後ろにしか進まない。
ずっと同じところで足踏みしてて、どこにも進んでいけない」
俊祐、煙草を吹く
俊祐 「なぁ、先生」
渚 「……」
俊祐 「俺今でも永久のこと好きじゃないよ。
まだ超えられてねぇし、それにちゃんとあいつと闘ってもねぇ。
一人相撲のまんま。
それにきっとこのままだったらずっと負けることになるから教えてやるよ」
渚 「え?」
俊祐 「今日、あの『時枷』の前であいつを見た」
渚 「……」
俊祐 「他に誰もいなくて、俺声かけてやろうかと思ったけど、
かけれなかった。
すっげぇ悲しい目してんの。
俺あいつのあんな顔見たことない」
渚 「……」
俊祐 「そしたら俺に気が付いてさ──」
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・会場(回想)
『時枷』の前にいる二人
春 「君……」
俊祐 「どうも…」
春、微笑む
春 「このモデル、君でしょう?」
俊祐 「あ、あぁ…」
春 「凄く綺麗だね」
俊祐 「そりゃどうも」
春 「ふふっ、それじゃあ僕はこれで」
去っていこうとする
俊祐 「待てよ!」
春 「?」
振り向く
俊祐 「会っていかないのか…?先生に」
春 「……」
俊祐 「今日来てるって」
春 「……」
俊祐 「……会えないんなら、せめて名前だけでも残して行けよ。
それくらいできんだろ」
春 「…そうだね」
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・居酒屋
俊祐 「で、俺が名前書かせたわけ」
渚 「……」
俊祐 「あいつ、今でも先生のこと好きだよ」
渚 「……」
俊祐 「なぁ、先生。会いに行けよ」
渚、俯いて首を振る
渚 「違うよ。彼はきっと俺のことを思って会わなかっただけだ。
俺が情けないこと知ってるから」
俊祐 「はぁ…。じゃあもう忘れろよ」
渚 「……」
俊祐 「うじうじして、忘れることも出来ない。
五年だぞ、五年。
ずっとこんな調子で、後ろばっか見て。
今会いに行かないなら一生そうしてればいい」
渚 「……」
俊祐 「俺が忘れさせてやろうか?」
渚 「え…?」
俊祐、渚の腕を引き、押し倒す
渚 「ちょ、ちょっと!哉家!」
俊祐 「先生、溜まってるだけじゃねぇの?
だからさ、あいつのことばっか考えてんだよ。
そんなによかったの?あいつとのセックス…」
耳元で囁く
渚 「哉家!やめっ──」
俊祐 「俺が忘れさせてやるよ…な?」
キスしようとする
渚 「や、やめろ!嫌だ!」
渚、泣く
俊祐 「……」
渚 「そんなんじゃない……俺は、ホントに…春のことが好きで…
会いに行ってもし…なんでもない顔されたらどうすればいいんだよ…
それこそ…俺……」
俊祐 「はいはい」
起き上がり、渚の手を引いて起き上がらせる
俊祐 「分かってるよ。なんもしねぇって。泣くな」
渚 「かな…いえ…?」
渚の頭をぽんぽん撫でる
俊祐 「それだけ好きなら永久に言ってやれって。
あんな顔して俺の絵見てる奴があんたのこと好きじゃねぇわけねぇ。な?」
渚 「……でも…」
俊祐 「それにいつ日本からまた居なくなるかしんねぇぞ?
会うだけでも行って来いよ。
それとも先生は別れた奴とは完全に縁切っちゃうタイプ?」
渚 「そんなことは…」
俊祐 「なんかあったら慰めてやるよ」
俊祐、笑う
渚 「……分かった…」
俊祐 「よし!んじゃこの女家まで送ってくか!」
渚 「うん」
笑う
俊祐 「それにしても本気で寝やがって…おい、起きろ」
生徒A「う〜ん……」
俊祐 「ったくしょうがねぇな…」
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・街
夜中の道を歩いている二人
俊祐 「あの天才野郎も何考えてんだかなぁ…」
渚 「え?」
俊祐 「俺があいつなら、有無を言わさず連れ去っていくんだけどな」
渚 「そう?」
俊祐 「あーでも、こういうところの違いなのかもなぁ。
俺があいつに追いつけないのは」
渚 「君がそんなに彼のこと根強く思ってるとは知らなかったな」
笑う
俊祐 「あー……」
渚 「ん?」
俊祐 「俺先生に偉そうなこと言える立場じゃねぇじゃん…」
渚 「えっと…」
俊祐 「俺も結局あいつの影に怯えてんだよな。
もういない背中追っかけて、一人で鬼ごっこでもしてる気分だ…」
渚 「君はそうやって成長してきたんだろ?
知ってるよ。今度ブランド立ち上げるんだって?」
俊祐 「なっ!」
渚 「秘密だった?」
俊祐 「…姉貴だな……」
渚 「君がモデルになってくれてやっぱり正解だったな」
俊祐 「それはどうも…」
渚 「そういえばさ、皆気がつかなかったんだって。あれ。
そのまま君なのに」
俊祐 「馬鹿じゃねぇの?俺でも気づかねぇよ!」
渚 「えぇ?どうして?」
俊祐 「はぁ……。俺先生にも勝てる気がしねぇ…」
渚 「え?」
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・自宅
電話の前に立っている渚
渚 「……」
渚M 「あの時見たのはやっぱり幻だったんじゃないかと何度も思った。
なんて言えばいい?
元気だった?
何してた?
俺のこと覚えてる?
時間はただただ、過ぎるだけ。
頭の中には馬鹿みたいな言葉が回る」
電話が鳴る
渚 「!は、はい!もしもし?」
俊祐 『先生?出んの早っ』
渚 「あ、いや、丁度前にいたから…」
俊祐 『ふーん。で?電話したの?』
渚 「今から…しようと…思ってて…」
俊祐 『あーなんだ。じゃあ切るわ。頑張れ』
渚 「あー!待って待って!」
俊祐 『何?』
渚 「な、なんて言えばいいと思う…?」
俊祐 『なーに、そんなことでずっと悩んでたのかよ。
別に何でもいいんじゃない?
個展見に来てくれてありがとうとかさ』
渚 「あ、そっか。そうだね。あとは?」
俊祐 『はぁ…。先生』
渚 「う、うん?」
俊祐 『俺の伝言あいつに伝えるわけじゃねぇんだから。
あんたが言いたいこと言えばいいよ。
会いたいって言えば?』
渚 「い、いきなりそれ言うのか!?」
俊祐 『じゃあ何のために電話するんですか…。
会いたくてしかたないんだろ?』
渚 「ぅぅ……」
俊祐 『あいつに最後、何言われたのか覚えてる?』
渚 「……愛してる…」
俊祐 『ハハハッ!あぁー聞くんじゃなかった』
渚 「えぇ…?」
俊祐 『大丈夫だよ。安心しろ。っつかさ、永久は先生が
落ち込むようなこと言う奴だったのか?違うだろ』
渚 「うん…」
俊祐 『だから胸張って電話してみろって。
俺ずっと待っててやるから、なんかあったら電話して?
すぐに行って慰めてやるからさ』
渚 「…うん…ありがとう…」
俊祐 『あー俺絶対馬鹿だ。なんであんな奴の手助けしてやってんだか』
渚 「え?どういう──」
俊祐 『まぁいいや、んじゃ頑張れよ。じゃーな』
切れる
渚 「え?哉家?もしもし?」
切れた受話器を見て首をかしげる
渚 「……」
渚 (よし!頑張れ俺!何も告白するわけじゃないんだから!)
頬を叩いて番号を押す
呼び出し音が鳴る
渚M 「機械音が耳元で響く中、この時間がずっと続くような気がしてしかたなかった。
もう帰ってしまってるんじゃないかとか、
もしかすると出てくれないんじゃないかとか。
そんなことばかり考えていた」
春 『はい。永久です』
渚 「あ、あのK大の──」
春 『先生……?』
渚M 「あの懐かしい声が耳元で響く」
渚 「あ、あの!えっと……」
渚M 「頭の中が一気に真っ白になって、せっかくアドバイスしてくれた
哉家の言葉もどこかに飛んで行った」
春 『ふふっ』
渚M 「控えめに、俺を笑うあの声を聞いた途端、
すべてが甦って目の前が一気に滲んで見えた」
春 『先生。お久しぶりです。元気でしたか?』
渚 「う、うん。元気だったよ。その、君は?」
春 『えぇ、元気でやってます』
渚 「そうか…よかった…。あの…」
春 『はい』
渚 「昨日は来てくれてありがとう」
春 『いえ。とても素晴らしかったです』
渚 「そ、そうかな…」
照れる渚
春 『……』
渚 「……」
春 『先生?』
渚 「は、はい」
渚M 「姿が見えなくてよかった。
目の前に、彼がいなくてよかった」
春 『会いたいな』
渚M 「必死になって抑えた震える声は、君にはばれずに済んだだろうか」
渚 「俺も…」
渚涙を零す
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・バー
カウンターの隅に座っている二人
春、静かに飲んでいる
渚その隣で固まっている
渚 (ど、どうしよう…)
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・街(回想)
待ち合わせをしていた二人
駅前の街路樹の下に春が立っている
それを見つけた渚
渚 「……」
渚M 「五年という歳月はこんなにも人を成長させてしまうのかというほど、
彼の変貌は俺を驚かせた」
渚 「は、春。ごめん。待った…?」
春 「先生。お久しぶりです。今来たところですよ」
微笑む春
渚、それをぼけっと見る
渚M 「彼のあの美しさは大人の落ち着きを加え、もう見たこともないほどで。
街を行く人々が何度も彼に振り返った。
とんでもない人だったんだと、再認識させられた」
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・バー
渚 (俺も老けたってことだ……どうしよう…絶対残念に思われてるっ…)
青くなる渚
春 「ふふっ。先生?」
渚 「は、はい?」
春 「先生は変わりないですね。あの頃のまま」
渚 「えぇ!?そ、そんなことないよ…五年も経って、ふ、老けただろ?」
春 「いいえ。やっぱり先生は若く見えるんですよ。
あの頃言ってたじゃないですか」
渚 「あ、あぁ…。まぁ、ガキ臭いってよく…」
春 「いや、やっぱり変わったかな?ふふっ」
春、渚を見て笑う
渚 「そりゃ…俺ももう三十超えて…」
春 「違いますよ。あの頃よりなんだか幼く見える」
渚 「え?」
春 「今の恋人のおかげかな」
春、渚を見ずにグラス片手に言う
渚 「こ、恋人?」
春 「えぇ、あの絵の中の」
渚 「か、哉家!?ち、違うよ!哉家とはそういうんじゃ…」
春 「ほんとに?」
渚 「ほんとに!」
春 「そう。僕はてっきりそうだと」
渚 「違うよ。彼とは親しくさせてもらってるけど、別にそういうんじゃない…」
春 「へぇ…」
渚、春の方を見る
渚 (な、なんか…怒ってる…?)
渚 「あ、あの!その…」
春 「ん?」
渚 「日本にはどうして?」
春 「あぁ、両親に呼び出されたんです。帰ってくるつもりは無かったんですけどね」
渚 「え?あ…そう、だよね…」
渚M 「やっぱり俺だけが舞い上がってたんだとこの時はっきり分かった。
自分のこの馬鹿みたいな感情が、急に恥ずかしくなって、
できればもう彼の前からいなくなってしまいたかった。
いまだにずるずる引きずってたのはやっぱり俺だけだった──」
春 「……」
渚 「いつまでいるの?」
春 「どうでしょう…。まだ分かりません」
渚 「そうか…」
渚、テーブルの上のグラスを両手で持って
それだけを見ている
春 「……」
渚M 「ふと、隣に置かれた彼の手を見て思う。
あぁ、もう本当にこの指に触れられることは無いんだろう。
あの優しいするりとした指先で、他の誰かに触れるのかと思うと
嫉妬心でどうにかなりそうだ……。
あの時すべてを捨てて行けばよかった。
そしたらこの手はずっと俺のものだった。
後悔ばかりが俺を包む」
渚 「ごめん、ちょっとトイレ…」
渚、席を立つ
春、後姿を見送る
春 「……」
テーブルに肘をついて
髪をくしゃっと掴み、ため息をつく
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・トイレ前
涙目でトイレへ行く渚
俊祐 「先生?」
トイレから俊祐が出てくる
渚 「か、ないえ…?」
渚、涙を拭いて笑う
渚 「なんだ、君も来てたんだ」
俊祐 「先生、なんで泣いてんだよ」
渚 「ううん。なんでもないよ。少し酔ったから…」
俊祐 「そんな顔してなんでもないわけねぇだろ。永久も来てんのか?
あいつに何か言われた?」
渚 「……」
俊祐 「先生」
俊祐、渚の腕を取り壁際へ寄せる
俊祐 「慰めてやるって言ったじゃん。俺に話してよ」
渚 「……」
渚、涙を零す
俊祐 「先生…」
渚 「や、やっぱり…今でも好きなのは俺だけだったんだ…」
俊祐 「そんなはず──」
渚、首を振る
渚 「帰ってくるつもりなかったって……言った…。
やっぱり電話したのも迷惑だったんだよ。
彼は俺に会うつもりも無かったんだ。
俺だけ、気持ち引きずって…今でも…」
俊祐 「……」
渚 「こんなだったら…会わなきゃよかった……
はっきり、分からないほうがよかった…
夢見てる方が……」
俊祐 「先生…」
俊祐、渚の顎を持って上を向かせキスをする
渚 「─!っ……ん…っ」
俊祐 「もういいよ。忘れろよあんな奴。俺が一緒に居てやるから」
渚 「か、ないえ……」
もう一度キスをする
渚 「ふっ…ん…ちょ、ちょっと…やめっ」
俊祐 「俺はあんたを一人になんかさせないよ」
渚 「んぅ……っ…」
春 「先生…」
春が来る
渚 「!春!あの、これは!」
春、微笑む
春 「遅いから様子見に来たんだけど、彼がいるなら大丈夫かな。
僕はこれで失礼します」
春、去っていく
渚 「春!待って!ちがっ──」
俊祐、追いかけようとする渚の手を掴む
渚 「哉家!離して!」
俊祐 「先生。ほんとにあいつでいいの?」
渚 「っ…」
俊祐 「……ごめん。分かってる。ほら、行けよ」
手を離す
渚 「哉家…。ごめん。ありがとう」
渚、春を追いかける
俊祐、後姿を見送ると、壁伝いに座り込む
俊祐 「あーあ。なーにしてんだよ……俺。
くそっ…」
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・街
渚 「春!待ってくれ!」
渚の声を聞かずに歩く春
走って行き、春の手を取る
渚 「春…話を…」
春 「……」
渚 「あの…」
春 「離してください」
渚 「でも──」
春 「やっぱり変わりましたね。先生」
渚 「え?」
春 「前はこんな嘘つく人じゃなかった…」
渚 「嘘?嘘なんか─」
春 「彼とキスする仲なんでしょう?」
渚 「違うんだよ!ホントに彼は友達で!」
春 「ふっ」
渚 「春…?」
春 「やめましょう」
渚の手を取って腕を離させる
春 「これじゃあまるで痴話喧嘩だ」
渚 「……」
春 「僕達、もうそういうんじゃないでしょう?」
渚 「っ……」
俯く渚
春 「先生が誰と愛し合っていようと、僕に何か言う権利はない」
渚 「……」
春 「先生だって、僕に言い訳なんかする必要ないんですよ」
渚 「……」
春 「僕達は五年前のあの日に終わってしまってるんだから」
渚 「っ……」
春 「……」
渚 「…終わって…ない…」
春 「…え?」
渚、泣いている
渚 「あの日から、終わらせようとずっと努力してきた。
でも夏が来るたびに、君のこと思い出して、
恋しくて、しかたなかった。
君を忘れることなんか…少しもできなかった…」
春 「……」
渚 「今でも…俺はずっと君が好きなんだ…」
春 「……」
渚 「ごめん…ごめんなさい…。
でも、迷惑はかけないから。もう君に電話だってしないし、
会いたいだなんてことも言わない。
でも、これだけは…
君を好きでいることだけは…許して欲しい…」
春 「……」
渚 「じゃあ、帰るよ。迷惑かけて本当にすまなかった。
元気で、頑張ってくれ」
渚、泣き顔で必死に笑う
渚 「さようなら」
背を向けて去っていく
春 「……」
渚M 「最後の顔が困った顔だなんて、それならやっぱりあの時のままの方がよかったのにな。
愛してると言ってくれたあの愛しい彼はもう俺には思い出す資格さえも無くなったんだ。
こんなことなら──」
渚、歩きながら泣いている
渚 「っ…ぅぅ……っず…」
腕を引かれ、抱きしめられる
渚 「……」
春 「さよならなんか…言わないでください…」
渚 「は、る…」
春 「ずっと我慢してたのに。僕が言えるわけないでしょう」
渚 「……」
春 「勝手に終わらせたのは僕だ。そんな僕にまだあなたのことを忘れられないと言う
資格はあるんですか?」
渚 「うそ……」
春 「嘘なもんか。今日だってあなたに触れたくてしかたなかったんだ。
それをずっと我慢してたのに、あなたは他の男とキスしてるんだから。
初めて人を殴りたいと思いましたよ」
渚 「夢見てるのか?」
渚、春の胸を押して離れる
春 「信じてくれないんですか?」
渚 「だって…こんな夢みたいなこと…夢でしかありえない…」
春 「ふふっ、じゃあもう夢の中ででいいです。
あなたにもっと触れていたい…」
もう一度抱きしめる
渚 「春……」
春 「先生、キスしてもいいですか?」
渚 「そっそういうことは……」
春 「だって他の男にされたままだなんて、いくら僕でも我慢できません」
渚 「〜〜〜〜っ…」
春 「ね?照れてないで」
春、渚に上を向かせる
渚 「あ、あの…じゃあ…うちに…」
春 「はい。じゃあ行きましょう」
手を取ってさっさと歩き出す春
渚 「は、春!?」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅
入ってくる
渚 「掃除しとけばよかったな──」
扉を閉めると同時に渚を壁に押さえつけキスをする
渚 「んぅ……っ…は、る…」
春 「なに……」
抱きつく
春 「先生」
渚 「何度も夢に見たんだ。君にこうして触れられることを。
何度も何度も。
この五年の間、気が狂うほど君が恋しかった。
今でもまだ信じられない……」
春 「先生。泣かないで」
上を向かせて涙を拭い微笑む
春 「ごめんね。でも許してください」
渚を抱きかかえる
渚 「うわっ!は、春!?」
春 「今から五年分愛してあげるから」
渚 「なっ!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅
ベッドでキスをしている二人
渚の服を捲り上げて胸にキスをする春
渚 「んっ……」
春 「……」
動きを止める
渚 「は、春…?」
春 「先生、彼とはホントに何もしてないんですか?」
渚 「えぇ!?何って──」
春 「何ってナニですよ。あの絵を描いた時、セックスしたんですか」
渚 「〜〜〜っ」
渚、両手で顔を隠す
春 「先生!?」
焦る春
渚 「なんで皆そんなこと考えるんだ…
俺がモデルに手を出したのは君が最初で最後だ!」
春 「……」
渚 「なんだよ、信じないって?
それにあの時は君が誘ったも同然だぞ!?
いくら俺がヌードデッサン得意だってもセックスしたくてやってるわけじゃないんだ…」
拗ねる渚
言葉をなくしている春
渚 「まだ信じない?
俺女の人にも手出したことないよ?」
春 「……」
春、額を押さえて顔をそらす
渚 「春?」
春 「いや…あの…嬉しくて……」
渚、笑う
渚 「君って時々凄く可愛くなるよね。アハハハッ」
春 「笑わないでください」
渚 「ねぇ、キスしてよ」
春、鼻でため息をつくとキスをする
渚 「んっ……」
春 「キスもしてないんですか?」
渚 「あ……いや…その…」
春 「はぁ……したんですね」
渚 「えっと……」
春 「まぁしかたないから許します。先生だって男だし、
あんなに可愛い子に迫られれば断れませんよね?」
渚 「そんなことっ!それにあれは──」
春、キスをして言葉を塞ぐ
渚 「っ…んぅ……はぁ…」
春 「今は僕のことだけ考えてて」
渚 「君が…言い出したんだろ…」
春 「ふっ、じゃあ僕のことも考えれないようにしてあげますよ」
渚 「なっ……!」
春、意地悪く笑うとズボンと下着を一気に脱がせ
渚の左足を持ち上げ口付ける
渚 「そ、そんなとこっ…汚いから……んっ」
春 「あなたに汚い場所なんかありませんよ…」
足の指を口に含み舐める
渚 「ぁっ……そんなっ…ん…だめ…」
渚、足を閉じようとするが
春に阻止される
春 「ふふっ、先生。何隠してるんですか」
渚 「だ、だって…ぅぁっ……ん…」
春 「こんなところ舐められて興奮するんだ?」
春、足で渚のものを触る
渚 「あぁっ……だめ、やだっ…」
春 「何がだめなんですか?足舐められてこんなにしてるのに」
渚 「ちがっ…!だって……ぁぅ…」
春 「ねぇ、ほら。気持ちいいの?」
渚の足を舐めながら足で強く擦る
渚 「んあぁっ…だめ、だって…つよ、い……」
春 「先生は足舐められるだけで、こここんなに濡らしちゃうんだ?
もうイきそうなんでしょ?震えてるよ?」
渚 「あぁっ…やだ…っ…ん……なんで…?
いじわる…なのっ……んぁっ……はる…」
春 「さぁ?」
渚 「やだっ…ほんとに、もう…だめっ…」
渚を触っていた足を離す
渚 「んっ……な、んで…?」
春 「まだ駄目ですよ…ん…」
舐めていた足を上に向かって這わせていく
渚 「んっ…ぁぁ……あっ、あっ…」
春 「先生、ほんとに足舐めてるだけでイけるんじゃないですか?」
笑う
渚 「そんなことっ…ない……あぁっ…やだ、はるっお願いだから…
触って…っ…焦らさないで…っ…」
春 「ふふっ、触るだけでいいんですか?舐めて欲しい?」
渚 「あっ……な、なめて…ほしい……」
春 「じゃあお願いして?」
渚 「……は、はるの…ッ…口で…イかせて……っ…お願い…」
微笑む春
春 「良く出来ました。じゃあ僕の口にいっぱい出して…」
咥える
渚 「ぁっ!やぁっ……んっ…!」
渚 (ひ、久しぶりすぎて……おかしくなりそう…っ…)
後ろに指を入れる
渚 「あぁっ……んぅ…やぁっ…」
春 「ん…せんせ?……ほんとにずっとここに誰も入れてないの?」
渚 「んんっ……ほんと、に……はるっだけ…ッ…」
春 「ほんとかなぁ…」
渚 「や、ぁ、そこ…ッ…だめ…っ…」
春 「ここですか?」
渚 「あぁっ!だめ…もうっ…でちゃう…んっ……」
春 「あなたのこんな可愛い顔みれるのも僕だけなんですか?…ん……」
渚 「あっ…ほんとに……ほんとに、はるだけっ…だよ…あぁっ!だめ…っ」
春 「いいよ…もう…イって……出してください……」
渚 「あ、あ、あっ!んっ…はぁっ……はる、はるっ!……イくっ…
でちゃ……っ…んっあぁっ!…あっあっ…あぁ───っ!」
春 「ん……んく……」
渚 「あっ……はぁっ……春……」
春の頭を撫でて引き寄せる
キスをする
渚 「んっ……春…愛してる……」
春 「まだ終わりじゃないですよ」
微笑むともう一度キスをして入れる
渚 「あぁっ……んっ、は、る…ッ」
春 「んっ……キツ……」
渚 「はる……っ…」
渚、涙を流す
春 「…先生……痛い?」
首を振る
春 「どうして…泣くんですか…?」
渚 「…嬉しくて……っ…ん…」
春 「っ──!」
渚 「あっ………はる…?」
渚に覆いかぶさる
春 「最悪だ……」
渚 「え?あの、俺…良くなかった…?」
春 「違いますよっ!」
春、悔しそうな顔をしている
春 「言葉でだけでイくなんか……今まで一度も無かったのに…」
渚 「……」
春、渚からどいてベッドの下に座り込む
渚 「春」
春 「……」
渚 「ハハハハッ!」
春 「笑わないでくださいよ……こんなの……」
渚、寝転がったまま春を後ろから抱きしめる
渚 「春、顔見せて?」
春 「嫌ですよ…こんな格好悪いところ見られたくないです……」
渚 「俺の言葉だけでイってくれるなんて、こんな嬉しいことないよ」
春 「僕はこんなに落ち込んでいるのにですか……」
渚 「なに、五年分愛してくれるんじゃなかったの?」
春 「自信がなくなりました……」
渚 「はははっ、じゃあ俺が五年分愛してあげるよ。ほら、立って」
渚、ベッドから下りて春の前に回る
渚 「お風呂でいっぱいしよ?」
春 「………」
渚 「嫌なのか?」
春 「あーもう…」
春、立ち上がって渚を抱きしめる
渚 「あれ?元気じゃないか」
春 「あなたが可愛い顔してそんなこと言うからですよ。ほら、お風呂でするんでしょ?
行きますよ」
渚の手を引いていく
渚 「はははっ!」
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・自宅
ベッドで寝ている二人
渚 「哉家のこと…そんなに嫌だった…?」
春 「何を言ってるんですか。僕は嫉妬の塊ですよ」
渚 「えぇ?ほんとに?あの時笑ってたじゃないか…」
春 「言ったでしょう。初めて人を殴りたいと思ったって。
その後あの場所であなたを犯してやりたくなりました」
渚 「……」
春 「なんですか?今更嫌いにでもなりました?」
渚 「いや……」
春 「いいですよ。先生が嫌いだって言っても一生離れてあげませんから」
渚、起き上がって春を見る
渚 「君がこんなに可愛いとは思わなかったよ」
春 「それ本気で言ってるんですか?」
渚 「あぁ。本気も本気だよ。前より好きになった」
春、笑って抱き寄せる
渚 「それに君を怒らせると怖いってことは良く分かった」
春 「はははっ。怒ってませんよ?ただ意地悪してあげたくなっただけです」
渚 「なるほどね…」
どちらからとも無くキスをする
春 「先生。愛してる」
渚 「うん。俺も」
笑い合う二人
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・自宅
朝食を食べている二人
渚 「あの頃も思ったんだけどさ、君って料理上手いよね。実家暮らしなのに」
春 「そうですか?普通ですよ。こればっかりは」
渚 「いや、君には勝てるものが一つもないな…。弱点が見当たらない」
春 「弱点?」
笑う
春 「弱点ならありますよ」
渚 「それは是非教えてもらいたいな」
春 「あなたのこととなると、僕は途端に駄目な男になるじゃないですか」
何食わぬ顔をして食事を続けている春
渚 「……。そこにどうして俺はつけこめばいいんだ…」
呆れている渚
春 「はははっ。そんなことされると困りますから教えませんよ」
渚 「う〜ん…」
春 「そうだ。先生、明後日の夜にでも会えませんか?」
渚 「明後日?あぁ…金曜か。大丈夫だよ」
春 「あなたにすべて話します」
渚 「え?話すって、何を?」
春 「日本に戻ってきた理由です」
渚 「あ、あぁ……わかった…」
食事を続ける
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第二章
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・会場裏
ドアを開けると目の前に人がいる
渚 「うわぁっ!」
俊祐 「何がうわぁだ。おい先生」
見上げる
渚 「なんだ、びっくりした…。そんなところに立ってないでくれよ…」
中に入る
俊祐 「それが俺に対して言う台詞か!?」
振り返って俊祐を見る
渚 「今日はいつもに増しておしゃれだね」
俊祐 「せーんーせーいー……」
渚 「うそうそ!ごめん!」
笑っている
俊祐 「もういいよ。その顔見たら全部分かった」
椅子にどかっと座る
渚 「本当にありがとう。どうにかなりました…」
俊祐 「あぁ。よかったな」
渚 「うん……」
赤くなる渚
俊祐 「くっそ!おい!先生!」
渚 「はい?」
俊祐 「キスさせろコラ!」
俊祐、渚を抱きしめる
渚 「ハハハッ!駄目だよ。春に怒られる」
俊祐 「あーもうなんだよその顔。…あの時無理やり犯してればよかった…」
渚 「え?」
俊祐 「なんでもねぇよ。それより、これ。やる」
紙袋を渡す
渚 「あぁ、ありがとう。なにこれ?」
俊祐 「中見れば分かる」
渚 「そう……」
中を見ると、一着のデザインスーツが入っている
渚 「これ」
俊祐 「あんたももう有名人なんだからさ。いろんなとこ行くんだろ?
よかったら着て」
渚 「嘘…これすごいよ…?」
俊祐 「それはどうも」
渚 「君やっぱり天才だね……ありがとう。大事にするよ」
微笑む渚
俊祐 「……」
渚 「?哉家?」
俊祐 「いや、なんでもない。っつかそれ、俺のブランド第一号」
渚 「えぇ!?そんなの貰っていいのか!?」
俊祐 「先生だからあげるんだろ。絶対着ろよ!あと宣伝しろっ!」
渚 「ハハハッ。うん。分かった」
俊祐、鼻でため息をつく
俊祐 「で?永久は?」
渚 「えっと……」
俊祐 「どうせあの後盛り上がっちゃったんだろ?」
渚 「……」
俊祐 「少しは否定しろよ…」
渚 「あ、いや、その…」
俊祐 「まぁいいや。先生のその顔見たら安心して俺も出て行ける」
渚 「え?どっか行くのか?」
俊祐 「あぁ、ちょっとアメリカまで」
渚 「そうか…」
俊祐 「何、そんな悲しい顔してくれるんだ?」
渚 「そりゃあ君には色々感謝してるんだ。モデルの事だってそうだし、
君に出会ってから凄く楽しかった」
俊祐、立ち上がり渚の前に立つと上を向かせる
俊祐 「そんなこと言うんだったら、最後に一回ヤらせてよ」
渚 「か、哉家…?」
俊祐 「なーんてな。嘘」
ドアの方へ行く
渚 「……」
俊祐 「なぁ、先生。あの絵、ほんとに俺でよかったのか?」
渚 「あぁ。当たり前じゃないか。君にしか出来なかったよ」
俊祐 「そっか。うん。分かった」
渚 「……」
俊祐 「あのさ。あの絵、俺にくれない?」
渚 「え?」
俊祐 「思い出に。いくらでも出すからさ」
渚、微笑むと首を振る
渚 「必ず君に届けるようにするよ。ありがとう」
手を出す
俊祐 「……」
その手を取ると、一気に引き寄せ抱きしめる俊祐
渚 「哉家」
俊祐 「先生に会えてよかったよ。最後に一つ聞いていい?」
渚 「?」
俊祐 「あいつが帰ってこなかったら、俺のこと好きになってくれた?」
渚 「……どうだろう」
微笑む渚
俊祐 「あーそう」
笑う俊祐
渚の頬にキスをする
渚 「っ…」
俊祐 「あいつと対等に勝負できるようになったらまた戻ってくるよ」
渚 「うん」
笑い合う二人
俊祐 「またな」
渚 「あぁ、元気で。また」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅
ソファに座っている二人
春 「両親に呼び戻されたって言いましたよね?」
渚 「あぁ…」
春 「僕に紹介したい女性がいると言われたんです」
渚 「え……」
春 「父の仕事関係のお孫さんで、今その人と会ってるんです」
渚 「……」
春 「先生。勘違いしないでくださいね。僕は男性しか愛せないんですよ」
渚 「あぁ」
春 「でも父を見ていると断れなくて。
それに僕、こんな性格だから」
渚 「会ってるって…その…」
春、少し微笑んで渚の頬に触れる
春 「何もしてませんよ。会って食事をしているだけです。
部屋にもあがったことはありません」
渚 「そう」
春 「このまま何もせずにいれば、僕に飽きてくれるんじゃないかと思っていたんです。
先生に会うまではね」
渚 「うん」
春 「でもそうもしていられないでしょう。
今までだって、こんな酷いことしていてよかったわけじゃない。
父のことを考えると、申し訳ないことをすると思うけど、
彼女には最低なことをしていると思うし、それに先生に後ろめたいことしたくないんです」
渚 「だから今日話してくれたのか?」
春 「えぇ。話すだけではなくて、もう彼女に会えないと伝えるつもりです」
渚 「そうか…」
春 「初めからこうしていればよかったんですけど」
笑う
渚 「……」
春 「先生?」
渚 「あの、さ」
春 「?」
渚、立ち上がり、俊祐に貰ったスーツの入った紙袋を持ってくる
渚 「これ」
中からスーツを出す
春 「わぁ、いいですね。このスーツ。どうしたんですか?」
渚 「哉家に貰ったんだ」
春 「彼が作ったんですか?さすがですね。やっぱり彼は凄いな…」
渚 「えっと、その。着てくれって言われてるんだけど、春が嫌なら……」
春 「はははっ」
渚 「春?」
春 「僕がやきもち妬くからですか?」
渚 「あー、いや、その、この間言ってたからさ…」
春 「これくらいならいいですよ。それに僕、彼の作る服凄く好きなんですよ。
これは着るべきです。それに彼のことだから絶対着ろって言われたんじゃないですか?」
渚 「あぁ、その通りなんだけど」
春 「じゃあなお更ですよ。ね?」
渚 「春がそう言うならそうするよ」
春 「どうしたんです?急に」
渚 「君が後ろめたいことしたくないって言ってくれたから…さ…」
春 「それは彼とのことが後ろめたいってことですか?」
渚 「えっ!?ち、違う!ホントに彼とは何もなくて!」
春 「はははっ、わかってますよ」
渚 「〜〜〜〜っ」
春 「今度着て見せてくださいね」
渚 「機会があればね…。彼、アメリカに行くんだって」
春 「へぇ、でも彼なら成功するでしょう」
渚 「うん。俺もそう思う」
春 「寂しい?」
渚 「そりゃあ、友達がいなくなるのは寂しいよ。
でもまぁ、生徒みたいなもんだしね、生徒が大きくなっていくのは嬉しいな」
春 「先生らしいですね」
渚 「そう?」
春 「えぇ」
笑い合う二人
渚M 「その女性に別れを告げて、その後どうするの?
また遠くに行ってしまうの?
それがどうしても聞けなくて、不安で不安で、仕方なかった。
今だったら、後悔したとき思ったように、
『連れて行ってほしい』と簡単に、言えるんだろうか……。
すぐ先の未来が見えない。
二人の道は、再び繋がってからずっと先に続いているのかな──」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅前
春 「先生、個展来週まででしょう?」
渚 「あぁ、火曜日が最終」
春 「じゃあその後お祝いしましょう」
渚 「ふふっ、楽しみにしてるよ」
春 「それじゃあ、おやすみなさい」
渚 「うん。気をつけて」
春、頷くと手を振って去っていく
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅
部屋に帰るとコップを片付けたりする
机の上に置いてある眼鏡ケースを見つける
渚 「あ……忘れていったのか…」
時計を見る
渚 「間に合うかな…」
眼鏡ケースを持って家を出る
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・街
春の自宅付近までくる
渚 (結局家まで来てしまった……電話した方がよかったかー…)
角を曲がったところで話し声が聞こえてくる
美紀 「どこへ行っていたんですか?誰と会っていたんですか?」
渚 「?」
春の自宅前で春に美紀(みき)が言い寄っている
春 「いえ、少し出かけていただけですよ。そんなことより、こんな時間に一人で危ないですよ。
どうして中に──」
美紀 「女性ですか?他に好きな人がいるの?どんな人?」
春 「美紀さん?」
美紀 「どうしたら私はその女に勝てますか?その人の何がいいの?ねぇ、教えてください…」
渚、近づけずにいる
春、美紀をなだめて家に入れる
渚 「……」
引き返す渚
渚M 「言葉にできない思いがあった。
春が『会えない』と言うつもりだと言った言葉も、なんだかぼんやりしてしまって
今になってどうして俺は男なんだろうと思った。
きっと彼の両親は、結婚することを望んでいるんだろう。
俺が現れなければ、彼は一般的な人生を送ることができたんじゃないか?
あんな風に、堂々と彼の家に行けたらどんなに幸せだろう。
先生なんかじゃなく、恋人として」
渚 「……」
振り返る
渚M 「でも彼は『お互い様ですよ』なんてさらりと言ってしまうような気がした。
今更なのだ。今はもう、彼の言葉だけを信じていこう。
彼さえ傍にいてくれれば、俺はもう何も望まない。
隣にいれるならそれでいい。
何もかも捨てる決心がついた──」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅
テレビを見ていると、インターホンがなる
玄関に行く渚
テレビ『明日のお天気です。明日はあいにくの雨模様となるようで──』
渚 「うわ、外すごいジメジメしてるね…」
春 「今日は一段と暑いですよ。あー涼しい…」
中に入る
渚 「はははっ、あ、そうだ」
春、ソファに荷物を置く
春 「?」
渚 「これ、昨日忘れてったよ」
眼鏡ケースを渡す
春 「あぁ、ほんとだ。すみません」
渚 「いや、いいんだけどさ。昨日、これ見つけてから君の後追いかけたんだ」
春 「そうなんですか?」
渚 「うん。それで結局君の家までいっちゃってさ……」
春 「はい」
渚 「その、女の人と話してるとこ見て…」
春 「あぁ……」
二人、ソファに座る
渚 「あの人が羨ましいなと思ってさ」
春 「え?どうして?」
渚 「俺も女だったらよかったって」
春 「はぁ…。何を馬鹿なこと考えてるんですか。
先生が女性だったら僕はあなたのこと好きだと思いませんでしたよ。
それとも遠まわしに振られてるんですか?僕」
渚 「ハハハッ。違うよ。そうだったらもっと幸せだったかなとか考えてただけ」
春 「先生─」
渚 「待って待って。それでさ、俺色々考えたんだよ。
君が居なくなってからずっと同じこと考えてたけど、
それがもう一度ちゃんと考えられるようになった。
俺君とずっと一緒にいたい」
春 「そんなの僕だって」
渚 「うん。ねぇ、春」
春の手を取る
渚 「俺を一緒に連れて行ってくれないか?」
春 「……」
春、言葉をなくす
渚 「今更遅いかもしれないけど…」
春、抱きしめる
渚 「……」
春 「先生。いいんですか?ほんとに」
渚 「うん。ずっとあの時言えなかった事を後悔してたんだ。
大人の格好付けなんかもうやめた。
この先もずっと、君の傍で生きていたいんだ」
離れる
春 「僕の一生をかけて、あなたを幸せにします。
僕と一緒にイタリアへ行ってください」
キスをする
渚 「うん。ハハハッ、なんだかこれじゃあプロポーズみたいだな」
春 「僕はそのつもりですよ」
渚 「あぁ、それもいいかもしれない」
笑い合う二人
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅
ベッドに寝ている二人
春 「明日、彼女に会ってきます。それで最後」
渚 「あぁ」
春 「実は言うとね、帰ってくるつもりはなかったっていうの、
あれ本当だったんですよ」
渚 「……」
春 「あなたに会っちゃいけないと思ってた。
忘れることなんかできなかったけど、それでももう僕たちの道は別れていて
先生は先生の道を歩いて行ってるんだから、
それを今更会いたいだなんて言っちゃいけないと思ってたんです。
あんな花贈っておいてなんですけど、あれは僕の悪あがき。
馬鹿みたいでしょう?」
渚 「いや、俺も同じこと思ってたよ。
この五年間、必死になってたけど、それでも忘れることなんか到底出来なかったし、
周りにも迷惑かけてた。
今では最初からこうすればよかったなんて思えるけど、そんなこと出来ないよな」
春 「えぇ。でも先生に会いたいって言ってよかったな」
渚 「あの時俺が言おうと思って電話したのにさ」
春 「分かってましたよ。だってあの時先生の声震えてたもん」
渚 「なんだバレてたのか」
春 「ハハハッ」
渚、笑って寝返りを打ち
春の手を握る
渚 「なぁ、春。イタリアの海はどうだった?」
春 「綺麗でしたよ。あいにく僕の住んでいる部屋からは見えませんでしたけどね」
渚 「そっか」
春 「海の近くで暮らしましょう。僕はずっと先生と二人であの海が見たいと思ってた」
渚 「うん。こんな幸せなことはないね。楽しみだな」
春 「もうあなたの手は離しません」
渚 「あぁ、俺もだよ」
目を閉じる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・喫茶店
春、美紀と向かい合って座っている
外は雨が降っている
美紀 「そんな……」
春 「ずっと言わなきゃいけないと思っていたんです。
僕には愛してる人がいるんです。ごめんなさい」
美紀 「そ、その人は…どんな人ですか…?綺麗な人?お金持ちなんですか?」
春 「……」
美紀 「ねぇ、答えてください永久さん!私じゃどうして駄目なんですか!?
何がいけないの!?」
春 「……僕は…」
美紀 「……」
春 「僕は女性を愛せないんです」
美紀 「え…?」
春 「ごめんなさい…」
春、俯いている
美紀 「どういうことですか……?それじゃああなたの愛している人って…」
春 「……」
美紀 「こんなの…こんなのおかしい……気持ち悪い……気持ち悪い!」
春 「……」
美紀、席を立つ
美紀 「おかしい……どうして私が……なんで……」
春 「美紀さん」
店を出て行く美紀
春 「美紀さん……」
テーブルに肘を突いて頭を抱える春
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・自宅
渚 「春!?どうしたんだびしょびしょじゃないか!傘は?」
玄関に立っている春
渚 「とりあえず中に入れよ」
春 「……ごめんなさい…」
渚 「春?」
春 「先生…」
玄関で渚に抱きつく
渚 「春?おい、大丈夫か?」
春 「……」
渚 「春……」
渚M 「抱きしめると、俺より背の高い春が何故か小さく思えた。
だけど風呂から出てくると、彼は落ち着きを取り戻した様に
少し笑って『誰かを傷つけるのは、やっぱり辛いですね』と言った。
彼女に何を言われたのか、俺は聞くことが出来なかった」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・会場裏
生徒A「せんせ〜、あの花見ました?すっごいの!」
渚 「あぁ、哉家からだろ?俺もびっくりしたよ」
生徒A「さすがですよね〜。ってアメリカ行ってるだなんて知らなかったな」
渚 「ハハハッ。今頃頑張ってるだろうね」
生徒A「だろうけど…ってせんせ。永久春とうまくいったらしいじゃないですか!
よかったですね!」
渚 「あぁ、ありがとう。君にも迷惑かけてたのに知らせなくてごめんね」
生徒A「いいですよぉ!せんせも忙しいだろうしっ!永久春と会わなきゃいけないですもんね」
渚 「うっ……ま、まぁ…」
生徒A「ハハハハッ。どうせ今日もこの後会うんでしょ〜?お祝いとかなんとか言っちゃって!」
渚 「やっぱり俺じゃなくて君が鋭いんだと思うよ……」
生徒A「なんだ当たり?その線も否めないな…」
笑い合う二人
ノックされる
渚 「どうぞ」
ドアが開くと春がいる
渚 「春」
春 「どうも」
生徒Aに頭を下げる
生徒A「あ〜ら、あたしはお邪魔だからこれで失礼しますよっせんせ!」
渚 「別に邪魔だなんて」
生徒A「いいのよいいのよ!じゃあね、この度はお疲れ様でした」
渚 「あぁありがとう」
手を振って出て行く生徒A
春 「よかったんですか?」
渚 「あぁ言ってくれてるしさ」
春 「ふふっ。そうですね。それよりあの花。凄いですね」
渚 「哉家のだろ?皆言うよ。ハハハッ」
春 「先生は愛されてるなぁ」
渚 「君ねぇ…」
春 「この後負けないくらいお祝いしますから」
渚 「ははっ。楽しみだよ」
春 「僕もう一度見てきます。終わるの四時でしたっけ?」
渚 「あぁ、五時に駅前で」
春 「分かりました。それじゃあ」
出て行く
渚M 「あの時見た笑顔は、今でも覚えている。
確かに未来は見えていた。幸せな、二人の未来──」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・街
帰宅ラッシュの駅前
沢山の人が行き交っている
駅前の広場の木の下で待っている渚
俊祐に貰ったスーツを着ている
駅前の大きな時計が五時を知らせるベルを鳴らす
何も変わらず人が行き交う中
前から来る春の姿を見つける
春も渚を見つけ手を振る
手を振り替えし、春の元へ行こうとする
渚 「……」
一瞬背後からの衝撃を感じる
春の表情が変わり、こちらに走ってくる
渚 「な、に……」
後ろに気配を感じて振り向くと美紀が立っている
震える手にはナイフが握られている
渚 「っ……!」
腰の辺りに違和感を感じて触れると手が真っ赤になる
渚 「なん、で…」
そのまま前に倒れこむ瞬間、春が抱きとめる
悲鳴が聞こえる
春 「先生!」
美紀 「その人が悪いのよ…私は悪くない……その人がいるから…私は悪くない…悪くない…」
突っ立ったままボソボソ言っている美紀
通行人A「おい誰か警察!」
通行人B「きゅ、救急車も!」
通行人C「そいつ取り押さえろ!」
春の膝の上で息を荒くしている渚
春 「先生!先生!しっかりしてください!」
渚 「だい、じょうぶだ…よ……これくらい…たいしたこと、ない……」
笑っている渚
春 「先生…ごめんなさい……僕のせいだ…」
泣いている春
渚 「どうして…?泣かな、いで……」
渚、手を伸ばして春の頬を撫でる
渚 「お、祝い……してくれる…っ…んだろ…?俺は…大丈夫だから……」
春 「っ……先生……」
渚 「大丈夫……き、みを…おいてなんか……いかない、から…っ…」
目を閉じる渚
春 「先生!先生しっかりしてください!」
渚 「大丈夫……大丈夫だよ……」
春 「先生!嫌だ……!先生!」
渚を抱きしめる
サイレンが聞こえてくる
男に取り押さえられている美紀
渚を中心にして人だかりが出来ている
渚M 「あの頃言ってくれたように、何度も大丈夫だと言った。
でも春は泣き止んでくれなくて、何度も何度も俺を呼んでいたような気がする。
俺の声は届いていないんだろうか。
耳がだんだんぼやっとしてきて、瞼は重く、彼の姿が見たくても
開いてはくれなかった。
ただ喧騒が取り囲んで耳を塞ぐようで、だけどそれが何を言っているのかも分からなくて。
春が俺を呼ぶ声も、だんだん遠くなっていった。
繋いだ手は離れたのだろうか。
ずっと繋いでいたあの温もりが感じられない。
春は今どこにいるの?
俺は大丈夫だから。泣かないで。
君のせいじゃない。何もかも大丈夫だから。
俺は居なくなったりしないよ……」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・??
渚M 「ここはどこだろう…白い靄に囲まれていて少し先さえ見えない」
腰に手をやる
しかし傷はない
渚M 「そうだ、もう治ったんだった。
せっかく貰った哉家のスーツ。穴が開いちゃった…
これどうしたら直るんだろう?春だったら知ってるかな…」
俊祐 『先生〜、せっかく俺があげたやつ、こんなにするなよな』
渚M 「あぁ、ごめん。でも似合ってるだろ?サイズもぴったり」
俊祐 『先生』
渚M 「何?そうだ、アメリカはどうだった?」
俊祐 『俺先生のこと好きだよ』
渚M 「え?ありがとう。でも俺には春がいるんだ。だからごめん」
俊祐 『好きだよ』
渚M 「だから春が…」
振り返る
渚M 「春は…どこだろう……なぁ、哉家─」
振り返るが俊祐はいない
渚M 「哉家…?おい、どこいったんだ?」
前に進みだす
渚M 「おーい!春ー!どこにいるんだ?ここはどこ?」
春 「っ……ぅっ……」
渚M 「あ、いた!春!」
近寄るが、泣いている春
渚M 「春。泣かないで。俺もうよくなったんだよ。もう大丈夫だから、
二人でイタリアへ行こう。
海の見える家で一緒に暮らそう」
春 「……」
泣きながら遠ざかっていく春
渚M 「あ!おい!待ってくれよ!どうして離れていくんだ?」
追いかける渚
渚M 「春!待って!どこ行くんだよ!春!」
追いつけない
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・病室
ベッドの上で酸素マスクをして寝ている渚
夜
医療機器の音だけが響いている
春 「……」
静かに涙を流しながらベッドの脇に立っている春
渚の手を取り、キスをする
春 「さようなら……」
去っていく春
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第三章
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・病室
ベッドから窓の外を見ている渚
看護士「渚さーん。点滴代えますね」
渚 「はい」
ドアからそれを見ていた俊祐、ドアを閉める
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・病院廊下
俊祐 「で、永久は?」
生徒A「捜索願が出されてるみたい。ご両親も分からないんだって」
廊下を歩いていく二人
俊祐 「どういうことだよ……」
生徒A「責任感じて姿をくらませたって考えるのが一番じゃない?
まさか自殺だなんていくらなんでも考えないでしょ」
俊祐 「責任感じてんなら先生のこと一番に考えるんじゃねぇのか?
弱ってる先生置いて消える奴がいるかよ。クソッ……」
生徒A「せっかくまた幸せそうな顔してたのにね…」
俊祐 「犯人は?」
生徒A「その場で捕まってるわよ。まともなこと話さない状態だって」
俊祐 「どうして先生なんだよ…」
生徒A「……。せんせね、笑ってるのよ。びっくりしちゃったあたし」
俊祐 「え?」
生徒A「話聞いて会いにきたとき、どんなこと言ってあげればいいんだろうって
すっごい考えてたんだけどさ、顔見たらせんせ、笑って話すのよ。
あんたに貰ったスーツが台無しだとかさ。
いつも通りに先生なのよ…」
俊祐 「……」
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・病室
俊祐が入ってくる
俊祐 「せんせー。元気?」
渚 「哉家!来てくれたのか、ありがとう」
笑っている
俊祐 「…いーえ、どう?調子は」
椅子に座る
渚 「うん。術後の経過もいいってさ。もうすぐ退院できるだろうって」
俊祐 「そっか。よかった」
渚 「そうだ、あのスーツ。穴開いちゃってさ。初めて着たのに」
俊祐 「いいよ。直してやるから安心しろ」
渚 「よかったー。もう駄目かと思って心配してたんだ。
花もありがとな、皆大騒ぎしてたよ」
俊祐 「そ?それならよかった」
渚 「そうだ、その時の写真が……」
脇の棚を探る
渚 「あっ」
写真を出すのと一緒にスケッチブックが落ちる
扇風機にページが捲られる
春の顔ばかりがスケッチされている
俊祐 「……」
渚 「……」
それを拾い上げる俊祐
俊祐 「はい」
渚 「あ、ありがとう」
俊祐 「先生さ、それは空元気なの?」
渚 「……違うよ」
俊祐 「ほんとに?」
渚 「うん。ほんとに。元気なのは元気だよ。寂しいけどね」
俊祐 「そう」
渚 「俺が今沈んでても、きっと春は帰ってこないだろ。
沈んでる方がきっと春は帰ってこない。
だから元気だして、早く怪我治して春を探しに行くんだ」
俊祐 「あいつが逃げたことにはどうとも思ってないわけ?」
渚 「……思ってないわけないだろ…」
俊祐 「そうだよな。ごめん」
渚 「辛いし、寂しいし、悲しいけど、でも俺は彼と一緒に生きていくって決めたんだ。
彼も俺を一生かけて幸せにするって言ってくれた。
だから俺は信じてる。
俺のこの傷以上にきっと彼は今頃傷ついて悲しい思いをしてるよ。
俺はそれを慰めてあげなくちゃいけないんだよ。
春を抱きしめてやれるのは、俺しかいない」
俊祐 「そっか。うん。じゃあ俺も協力してやるよ」
渚 「え?」
俊祐 「ほんとはさ、弱ってる先生につけこんで今度こそ俺のもんにしてやろうかとか
思ってたんだけど、それだけあいつのこと思ってるなら
そんな隙もねぇもんな。先生を幸せにするには協力するしかねぇだろ?」
笑う
渚 「ありがとう」
渚M 「ほんとは泣きたくてしかたなかった。
どうして俺を置いて行ってしまったのか、考えても分からなくて
捨てられたんだろ?と心のどこかで思うところもあった。
でもあの雨の日、彼はもう追い詰められていたんだと思う。
あの時ちゃんと話を聞いてやっていれば、こんなことにはなっていなかったかもしれない。
後悔ばかりだ。俺達の道は。
どうしても繋がっていられないらしい。
でも、それでも、俺は彼と一緒に生きたい。生きていたい。
だから諦めないで、彼を見つけ出してみせるんだ。
イタリアの海を、二人で見るって約束したんだから」
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・病院前
生徒A「せんせ〜!」
俊祐と生徒Aが車を用意して待っている
渚 「わざわざありがとう」
俊祐 「いいよ。ほら、行くぞ」
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・車
生徒A「あたしもいろいろ調べたんですけどね──」
渚M 「三週間の入院の後、哉家と大谷(おおや)が少しでも手がかりを見つけようと
車を出してくれることになった。
この入院生活の間、春の手がかりは一向に掴めないでいた」
大谷 「やっぱりイタリアに行ってる線が強いと思うんです」
俊祐 「でも仕事先に連絡いれても辞めたって言われたんだろ?」
大谷 「うん。だけどやっぱり行くとしたらイタリアだろうなって」
俊祐 「そんな安易に見つかるようなとこに行くかー?」
大谷 「あたしもそうは思ったんだけどね、せんせ、彼と約束したんですよね?」
渚 「あ、あぁ」
大谷 「話聞いてる限り、かなりのロマンチストだし、そういうとこに行きそうなのよ。
それに勝手がいいでしょ、五年も住んでたんだから。
あっちには知り合いだって沢山いるだろうし」
渚 「イタリアか……」
大谷 「そこーで!なんとあたし来週ローマに出張なんです。凄くないですか?」
渚 「ほんとに?」
大谷 「えぇ、ほんともほんと。あたしもビックリしました。
彼が留学していたフィレンツェはローマの隣だし、
あたしちょっとあたってみます」
渚 「ありがとう」
大谷 「せんせの為ならあたしはどこへでも飛んで行きますよー!」
大谷、笑う
俊祐 「んじゃま、イタリアはあんたに任せるとして、今日はどうする?
先生、なんか気になるとこあるか?」
渚 「あぁ…、あの展示館…あそこに向かってくれないか?」
俊祐 「了解」
渚 「……」
窓から外を見る
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・展示館
受付で話を聞いている三人
大谷 「心当たりありませんか?どんな情報でもいいんです」
受付 「そうですねぇ、知ってるんですよ。この方。『渚』には私も驚かされたんです。
あんな若いのにあれほどの物を作れるなんてねぇ…。
でもこのところ見かけてはいませんよ。
目立つ人だし、見てれば覚えてると思うんですが…」
渚 「そうですか。ありがとうございます」
受付 「えぇ、お役に立てませんで…」
受付を離れる
俊祐 「ここにも来てないかぁ……」
大谷 「せんせがあの時幻見たのもここなんですよね?」
渚 「あぁ」
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・展示館
『渚』と『春』の前にいる三人
大谷 「あたしこれ見たとき、びっくりしたんですよね。
まさかこんな二つ並べられて飾られるとはって。
まさに運命感じたなぁ」
俊祐 「いくら主催が同じだからってなぁ。っつか恥ずかしくないか?
二人そろって相手の名前だぞ。俺だったら恥ずかしくて抗議するな」
渚 「はははっ、さすがにこれは驚いたけどね」
大谷 「そうですか?あたしこういうの憧れる」
渚 「君は昔から臭い題名ばっかりだったしね」
大谷 「あ〜それどういう意味ですかぁ?」
笑う
男性 「あの……」
振り返る三人
掃除係の職員が立っている
男性 「さっき、永久さんを探されてるとかって…」
大谷 「はい!何かご存知ですか?」
男性 「はい。僕見たんです」
渚 「ここで?」
頷く
男性 「凄く覚えてます。先月の十七日の開館した直後です。
誰もいない館内で、一人ここでこの像と絵を見ていました」
俊祐 「十七日って、事件のすぐ後」
渚 「うん」
男性 「僕この像の式典に行かせて貰ってたんです。
だから永久さんのことは凄く覚えてました。
一言声をかけようと思ったのですが、とても声をかけられる雰囲気ではなかった」
大谷 「……」
男性 「しばらくすると、彼はそのまま去っていかれました。
その後は分からないですけど、僕は確かにここで彼を見ました」
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・展示館
夕日が窓から差し込んでくる
まだその場にいる三人
大谷 「最後に見ておこうと思ったんですかね…」
俊祐 「だろうな」
渚 「……」
大谷 「……」
大谷、渚を見てから夕日の差し込む窓を見る
大谷 「あ……」
俊祐 「なんだ?なんか分かったのか?」
大谷 「いや、また運命感じた…」
渚 「?」
大谷 「この像ってせんせなんだよね?」
渚 「あぁ、それがどうかしたのか?」
大谷 「ここからイタリアは北西です。この像も北西を向いてる。
イタリアを見てるんですよ!」
俊祐 「はぁ……しょうもねぇ…」
大谷 「いやいや!あたしの感は当たるのよ!ねぇ!せんせ!」
渚 「そうだね」
笑う
大谷 「永久春は絶対イタリアにいるわ!」
呆れる俊祐
笑っている渚
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・展示館前
出てくる三人
渚M 「彼女が言ったことを信じたかった。
でもあれはきっと俺の思いがそうさせたんじゃないかと思う。
『渚』はずっと春を思ってイタリアを見ていた」
道の先、あの時春を見た場所を見る
あの時のことを思い出す
渚 「……」
渚M 「彼は今、俺を思ってくれているのかな……」
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・喫茶店
大谷 「ごめんなさい…」
渚 「いいよ。謝らないでくれ。行ってくれただけでもありがたいんだからさ。
お疲れ様」
沈む大谷
俊祐 「イタリアでも行方知れずか…」
大谷 「勤めてた会社はやっぱり分からないって。
辞めてから連絡を取ってる人もいないみたい。
留学してた学校にも問い合わせてみたけど、そこの先生もしらないみたいで…。
結局分かったのはフィレンツェが凄くいいところだったってことだけよ…」
渚 「ハハハッ」
大谷 「あー、それと」
渚 「?」
大谷 「聞く人聞く人、みんな彼のこといい奴だって言ってました。
学校の先生なんて、一時間も彼の魅力を語ってましたよ」
渚 「そう」
大谷 「何でもできる天才くんは中身も最強なんですね。
あんたは勝てないわ…」
俊祐 「うるせぇ」
渚 「ふふっ」
渚M 「それから当て所もなく彼を探し続けた。
だけど手がかりさえも見つからなくて、時がたつほどに、彼の面影はこの街から薄くなっていく」
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・教室
窓から見える木々は、枯葉が散っている
画板に向かって絵を描いている
渚M 「あれほど忘れられなかった彼の笑顔も、だんだん、だんだん
薄れていく。記憶の中で笑う彼は、もう俺の手では描きだせない。
あんなに綺麗だった彼を、もう描けなくなっていた」
絵の中顔に影がかかっている
ため息をついて、窓の外を見る
渚M 「もう季節は冬になってしまった──」
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・自宅
ソファでイタリアの美術雑誌を見ている
ため息をついてベッドに寝転がる
春 『海の近くで暮らしましょう。僕はずっと先生と二人であの海が見たいと思ってた』
春 『もうあなたの手は離しません』
渚 「……嘘つき……」
涙を流す渚
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・友人宅
イタリア、窓辺のソファに座って外を見ている春
ダリオ「電気もつけないで。そんなに外にいい女でもいるのか?」
春 「あぁ、おかえり…」
ダリオ「あぁ、お前は女に興味ないんだったっけ?」
春、笑う
ダリオ「この四ヶ月、何も聞かないつもりでいたけど、
そろそろ聞いてもいい頃かな?」
春 「……聞いたって気分のいい話なんかじゃないよ」
ダリオ「いいよ。じゃあ俺の気分を害してくれ」
春 「君は……。君のそういうところ好きだよ」
ダリオ「おいおい、俺は男には興味ないぞ」
春 「あんしんしろ、好みじゃないから」
笑う
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・ダリオの工房
眼鏡をかけて黒のベールを作っている春
傍に黒のドレスを着た像がいる
ダリオ「知り合った時からずっと思ってたけど、お前やっぱり天才だな」
ダリオ、工房に入ってくる
春 「邪魔だったらどくけど」
ダリオ「いや、いいよ。お前を見てると創作意欲が一気になくなる」
呆れる
春 「言ってくれるね」
ダリオ「ずっと何を作ってるのかと不思議だったんだ。
こんな趣味の悪い暗い人形作ってんだもんな。
でもお前の恋人の話聞いて全部分かったよ。
そんなに好きなら日本に帰ればいいのに」
春 「帰れたらこんなとこにいないよ」
ダリオ「ごもっとも」
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・ダリオの工房
夜中
月明かりが窓から入っている
ダリオ「おい、春。まだやって──」
作業台の上で眠っている春
ダリオ「こんなとこで寝て…」
春の肩を叩こうとすると
春の目から涙が零れる
ダリオ「……」
黒いベールをかぶった像を見る
ダリオ「そんなに会いたいなら素直になればいいのにな…」
ため息をつく
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・部屋
ベッドで目を覚ます春
春 「あれ…いつの間に……」
目を擦ってリビングへ行く
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・リビング
ダリオ「おぉ、起きたか。もうすぐ飯できるから座ってろ」
キッチンで朝ごはんを作っているダリオ
春 「僕いつの間に部屋に戻ってたんだ?」
ダリオ「俺が運んだに決まってるだろ。それより春。
お前ちゃんと食ってねぇだろ。アーシアより軽かったぞ」
春 「はははっ、それは彼女に怒られるな」
ダリオ「冗談言ってないで食えよ」
料理を持ってくる
春 「あぁ、ありがとう」
ダリオも座って食べる
ダリオ「そうだ、お前あの人形コンテストに出さないか?」
春 「え?」
ダリオ「いい線いくと思うぞ」
春 「……考えてみるよ」
ダリオ「あぁ」
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・自宅
学校から帰ってきた渚、ポストに入っていた荷物を見つける
渚 「?」
家の中に入り、ストーブに火をつけ
ソファに座る
渚 「誰から……イタリア…!」
中を開けると雑誌が入っている
ページを捲っていくと手を止める
渚 「……」
あの像が写っている
渚 「ミ…スクーズィ……春だ。春が作ったんだ…」
製作者を確認するが書いていない
渚 「で、電話…!」
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・喫茶店
雑誌を見ている俊祐と大谷
大谷 「これはもう決定ですよ!」
俊祐 「あぁ……」
渚 「どうしよう…」
大谷 「どうしようもこうしようも!会いに行きましょうよ!
きっとこれも彼が送ってくれたんですよ!」
俊祐 「…いや、俺は違うと思う」
大谷 「どうして?」
俊祐 「あいつはこんなことしねぇよ。こんなことするくらいならきっと帰ってきてる」
大谷 「じゃあ誰が…」
渚 「俺もそう思う」
俊祐 「どうするんだ先生。あとはあんたが決めるだけだ」
渚 「……」
大谷 「せんせ…」
渚 「行くよ。彼を探しに」
俊祐 「おっし、じゃあ決定だ」
大谷 「差出がやっぱりフィレンツェですね。あーもう!もっとあたしが調べてれば!!」
俊祐 「今更どうこう言ってもしかたねぇよ」
笑っている俊祐
渚 「あぁ、今度こそ見つけるよ」
渚M 「冬の真っ只中。あれからもう半年が経っていた」
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・空港
俊祐 「ごめんな、先生」
渚 「いいよ。俺一人で大丈夫だから。仕事ちゃんとしてこいよ」
俊祐 「あぁ、あんたも絶対捕まえて来いよ」
渚 「うん」
手を振る俊祐
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・飛行機内
窓から外を見ている
渚M 「今までずっと探しても見つからなかった。
彼はどうしてあれを作ったのか。一目で分かる、あの像。
悲しい顔した『Mi scusi(ミスクーズィ)』
あれは春なのか?今君はあんな顔して暮らしているのか?
俺は怒ってなんかいないのに、どうしてあんな……」
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・空港
外に出ると雪が降っている
渚M 「フィレンツェに着いてみると、その日は珍しく大雪だった。
視界のぼやけるその光景は、あの時見た夢と良く似ていて、
あの時みたいになるんじゃないかと怖くなった。
だけど、もう嫌われてもいい。
しつこいと思われても、それでも俺は春に会いに行く」
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・美術館前
渚 (立派だな……)
外観を見上げる
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・美術館
渚M 「『Mi scusi』が受賞した賞は、イタリアでも有名な賞らしく、
沢山の人が来館していた。
中でも一番奥に飾ってあったあの像は、遠くからでも分かるほどに
美しくて、見る人皆がため息をついた」
渚 「……」
人だかりの一番端で像を見ている
渚M 「ただ嬉しくて、溢れる涙が止まらなかった」
泣いている渚
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・受付
赤い目をしている渚
渚 「あの、すみません。『Mi scusi』を作った人は…」
受付 「残念ながら非公開ということですので、質問にはお答えできません」
渚 「え…。あ、そうですか。あの、伝言とかもお願いできないでしょうか?」
受付 「手紙などは受け付けていますよ」
渚 「そうですか。あの、何か書くものを貸してもらえませんか?」
受付 「えぇ。どうぞ」
紙とペンを受け取る
渚M 「間違いない。間違えるはずがないんだ。
春と会えればそれでいい」
渚 「これを、お願いします」
受付 「承りました」
頭を下げて去っていく渚
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・美術館
スーツを着た春が歩いている
春 「そんな……」
出て行く渚を見つける
春 「……」
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・控え室
椅子に足を組んで座っている
ノックがし、係員が入ってくる
係員 「さきほど手紙を承りまして、?日本語…のようなのですが…」
春 「日本語…?」
係員 「こちらです」
春 「……」
渚の字で『おめでとう。Fホテル1503号室に居ます。会いたいです。渚隼人』と
書かれている
係員 「失礼します」
去っていく
春 「……」
春、メモをぎゅっと握り椅子に座ると
机に肘をついて頭を抱える
春 「どうして……」
ノックされ、ダリオが入ってくる
ダリオ「?どうしたんだ?」
春 「……」
机に置いてあるメモを見つける
ダリオ「日本語…?あ!彼が来たんだな!」
春 「君が何かしたのか……」
ダリオ「あぁ、雑誌を送ったんだ。お前が名前も公表しないって言うからさ。
会ったのか?」
春 「なんてことしてくれたんだ…」
ダリオ「おいおい、何をそんな…会えなかったのか?」
春 「余計なことしないでくれ!僕がいつ君に頼んだ!?
僕はもうあの人に会うつもりはないんだ!」
ダリオ、鼻でため息をつく
ダリオ「あんな顔してられるこっちの身にもなれよ。
そろそろ素直になったらどうだ?お前の気持ちもわからないでもないけどな。
そんないつまでも怖がったままだと、お前はこの先ずっと不幸なままだぞ」
春 「いいんだそれで…僕がいるから彼は……あんなこと…」
ダリオ「馬鹿馬鹿しい。あんな顔して泣いてたくせに、なにを言ってんだよ」
春 「放っておいてくれ……僕はもう死んだも同然なんだよ!」
ダリオ「あぁそうか!分かったよ!じゃあ俺は勝手にするからな!」
出て行くダリオ
春、泣きながら頭を抱える
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・ホテル
ベルが鳴る
渚 (春!?)
急いでドアを開ける
ダリオ「ハロー」
渚 「?…は、ハロー…」
ダリオ「君、イタリア語は話せる?」
渚 「え、えぇ…」
ダリオ「良かった。俺は日本語も英語も駄目なんだ」
渚 「あの…あなたは…?」
ダリオ「君、春に会いにきたんだろ?」
渚 「!春を知ってるのか!?」
ダリオ「あぁ、知ってるも何も。王子様は俺の家でずっと篭城されている」
渚 「……」
渚、涙目になる
ダリオ「君、ホントに春より年上なのか…?日本人は若く見えるが
高校生くらいじゃないのか?」
渚 「これでも…三十超えてるんだ……」
ダリオ「なんだって!?俺より年上なのか…。いや、そんな話はどうでもいいんだ。
王子様を迎えにきてやってくれないか?」
ダリオ、優しく微笑む
渚 「もちろんだよ」
ダリオ、渚の頭を撫でる
ダリオ「そうしてくれると助かるよ。ここに来るまで苦労したんだぜ?
日本語のメモを見てもちんぷんかんぷん。
日本語が分かる奴を探して、やっとここにたどり着いた」
笑う
渚 「彼はどうしているんだ?」
ダリオ、鼻でため息をつく
ダリオ「ご立腹だよ」
渚 「え?」
ダリオ「あの雑誌を見て来てくれたんだろ?あれを送ったのは俺だ」
渚 「そうだったんだ…」
ダリオ「俺は良かれと思ってやったんだ。それが王子は気に入らなかったらしい」
渚 「そうか……」
渚、泣く
ダリオ「あー、泣くな泣くな。大丈夫。あいつは素直じゃないんだよ」
渚 「彼が素直じゃない?そんなわけ…」
ダリオ「そうか?俺には全然素直じゃないけどな。
こっちに来てからずっと沈んでてさ。あんな辛気臭い像を作ってばっかり。
お陰で俺の仕事は進まないし、工房で眠りこけては泣いてばかり」
渚 「泣いていたのか……」
ダリオ「あぁそうだよ。だから君が迎えに行って慰めてやってくれ。
さぁ、行くぞ」
渚 「あぁ。ありがとう」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・ダリオ宅
ソファに座って窓からそとを見ていると
ダリオの車が前に止まる
その中から出てくる渚とダリオ
春 「……」
驚く春
渚を外で待たせてダリオが上がってくる
春 「余計なことはするなって言っただろ!」
ダリオ「俺は勝手にするって言っただろ。ほら、ここまできたんだ。会って来いよ」
春 「無理だ……会えないよ……」
春、俯く
ダリオ「いい加減にしろ春!」
春 「君が迷惑だって言うなら出て行くよ……だけど彼には会わない…」
ダリオ「何をそんなに意固地になってんだ!?好きなんだろ!」
春 「好きだ!好きだから会えないんだよ!僕にしか分からない……」
ダリオ「あぁそんな偏屈な考えお前にしか分からないだろうな!クソ!」
ダリオ出て行く
泣いている春
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・ダリオ宅前
出てくるダリオを見て一瞬表情が明るくなるが
ダリオが首を振る
渚 「……」
ダリオ「だめだ、俺とじゃ話しにならない。なんであんなに馬鹿なんだろうな…」
渚 「俺にはそんなこと一言も言わなかったな……」
ダリオ「なんだ?のろけか?」
渚 「いや、俺には彼は凄く大人に見えていたよ。
わがままなところなんか、一度も見たことなかった。
いつも考えはまっすぐで、頼りになって、いつでも俺を支えてくれてた。
でも本当の彼はきっとそうじゃなかったんだろう……」
ダリオ「おいおい。君もそんななのか?
俺はそうは思わないね。まぁ確かに好きな人の前では気丈に振舞ってたかもしれないけどな。
今のあいつは完全にただの馬鹿になってるだけだ。
ホントのあいつじゃないよ」
渚 「……もう少し、ここで待たせてもらえないかな」
ダリオ「あぁ、家に上げてやりたいところだけどな。このままだとあいつに噛まれちまいそうだ」
渚 「はははっ」
ダリオ「俺が手を貸せるのはここまでだ。あとはあんたら次第だよ。
頑張って王子様を連れて行ってくれ」
渚 「あぁ。ありがとう」
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・ダリオ宅
窓から渚を見ている春
渚、家の前の階段に座って行き交う人を見ている
春 「……」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・ダリオ宅前
渚 (ここから海は見えないか……)
町並みを見ている
渚M 「泣くほど俺のことを思ってくれているのなら、今すぐ出てきてくれればいい。
何も怖くない。怒ってなんかもない。
ただ俺は君を愛しているだけだ。それ以外の感情なんか、もうないんだから。
お願いだから、顔を見せて」
窓を見上げる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・ダリオ宅
相変わらずソファの上にいる春
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・ダリオ宅前
俯いている渚
男性 「こんにちは」
渚 「?こんにちは…」
男性 「こんなところで何してるの?」
渚 「えっと…いや、ちょっと…」
男性 「暇なら僕と遊びに行こうよ」
渚 「えぇ!?いや、いいです。暇じゃないです」
男性 「いいからさ、ほら、行こう」
無理やり手を引かれる
渚 「ちょ、ちょっと待って!俺はここにいなきゃ──」
手をつかまれる
春 「この人に何の用?」
見上げる
渚 「春……」
男性 「なんだ、相手がいたの。それじゃあね」
男、去っていく
春 「……こんなところにずっと居ると危ないですよ。タクシー呼びますから帰ってください」
目も見ずに戻っていく
渚 「春!待って!」
春 「……」
渚 「話だけでも聞いてくれ!」
春 「話すことなんてありません」
渚 「俺はあるんだ!なぁ、お願いだから──」
春 「これ以上…僕の傍にいないでください……」
渚 「春…」
春 「あなたを忘れられなくなるから……」
泣いている春
それを見て微笑む渚
渚 「こんなに可愛い人、置いていけないよ」
渚、春を抱きしめる
渚 「やっと会えた。君はどれだけ僕を傷つければ気が済むんだ?」
春 「だから──」
渚 「君が居ないと生きていけないようにしたのは君だぞ。
責任取れよ」
春 「……ひどい…」
春、両手で涙を拭いている
渚 「言ってくれ。お願いだから。もう待つのは嫌だ。
約束したじゃないか。幸せにするって」
春 「いいんですか……ほんとに…あなたは幸せになれるんですか…」
渚 「君にしかできない」
春 「先生」
キスをする
春 「愛してる。ごめんなさい…」
渚 「もういいよ。ずっと探してた。もういなくならないでくれ。お願いだから」
渚、泣く
春 「ごめんなさい……僕…」
渚 「何も言わなくていいから。俺の傍にずっといてくれ」
春 「はい…」
抱き合う二人
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・ダリオ宅
手を引いて中に入る
玄関に入った途端座り込む渚
渚 「っ……ぅっ……」
春 「先生」
しゃがみこむ春
渚 「こ、怖かった…もうほんとに会えないかと思った……」
春 「……」
渚 「ぅぅ……っ……」
春 「先生」
抱きしめる
春 「ほんとに僕でいいの?」
渚 「まだ言うのかよ……さっさとベッドに連れてけよ……ぅぅ…」
春 「今の僕にはカッコイイことなんか言えないですよ。それでもいい?」
渚 「もうなんでもいいから。春だったらいい」
首に手を回して抱きつく
春 「ごめんね」
抱き上げて二階へ連れて行く
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・部屋
ベッドに下ろしてキスをする
春 「鼻水が垂れそう…」
渚 「ほんとにかっこよくない……」
春 「だから言ったでしょう」
渚 「もう鼻水でもなんでも垂らしていいからもっとキスして。
会えなかった分。いっぱいして?」
春 「うん」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・部屋
抱き合っている二人
渚 「あっ…や、だ……っん…もう……!」
春 「いいよ…」
渚 「あっ、や、…でるっ……はる……やぁっ…んっ…あぁっ───っ!」
春 「先生っ……!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・部屋
眠っている春の寝顔をスケッチしている渚
渚M 「久しぶりに見た彼の寝顔は随分幼く見える。
本当に疲れきって夢も見ずに眠っているのだろう。
微かな寝息を立てているところを見ていると、
子守唄でも歌ってやりたくなる」
目を覚ます春
渚 「おはよう」
春 「またあなたは勝手に……」
渚 「君はいつもいいところで目を覚ましてくれるんだ。
本当は起きてるんじゃないのか?」
笑ってサインを描く
春 「分かってたらやめさせますよ。見せて」
渚 「ふふっ、可愛いだろ?」
絵を渡す
春 「はぁ……」
渚 「はははっ、そんなため息つくなよ。
俺、君に謝らないといけないな」
春 「謝る?それは僕でしょう?」
渚 「いや、今回のことで良く分かった。君は見た目よりもずっと子供だよ」
春 「……」
渚 「もっと話を聞いていればよかった。どこかで君なら大丈夫と思ってたんだ。
俺は俺のことしか考えてなかったんだよ」
春 「たしかに僕は子供ですよ。きっと先生が思っているよりもね。
すぐ逃げるのもそう。でもそのせいで僕は先生をあんな目に合わせたんです。
あんなに近くにいたのにあなたを守ることさえも出来なかったんだ」
渚 「あの距離で飛んできてくれたら君は本物のスーパーマンだな」
笑う
春 「本当はあの時もう死んだほうがいいかと思った」
渚 「何言ってるんだ」
春 「先生が病院のあのベッドで寝ているのを見て、そう思ったんです。
最後に先生のあの絵を見たくて、あそこへ行ったら
相変わらず『渚』は笑ってました。
それを見てたらなんだかもうどうすればいいか分からなくなって
そのまま逃げたんです。その後どうしようかとか考えもできなかった」
渚 「……」
春 「『Mi scusi』を作ってたのもただ気を紛らわせるためだった。
あんなもの作ってどうするんだって思って、
出来たときにはもう壊してしまおうと決めてた。
ダリオにコンテストに出せって言われて、考えるとは言ったけど
最後まで悩んだんです。こんな暗いもの、人目に触れさせるものじゃないと思った。
でもこれで最後にしようと思ったんです。
全部終わり。何もかも終わらせようって」
渚 「……」
春 「そしたらあんなことになって。正直皆おかしいんじゃないかと思った。
あんなもののどこがいいのか分からなかった。
僕の僕自身への憎悪の塊が、美しいと言うんです。
ありがとうだなんて一度も言えなかった。
まさかあそこで先生をみつけるだなんて思いもしなくて」
渚 「?知ってたのか?」
春 「えぇ。驚きましたよ。一人で歩いているんだから。
あのメモを貰っても行く気にもなれませんでした」
渚 「……」
春 「会ったらもうお終いだと分かってたから。
あなたのことは心から愛してた。嫌いになんかなれるはずなかった。
会ったらもう、あなたに縋るしか出来なくなる」
渚 「……」
春 「それでこの通り。もう分かったでしょう?僕のみっともない
子供じみた性格を」
渚 「うん。だから謝るって言ってるんじゃないか」
春 「……話ちゃんと聞いてました?」
渚 「聞いてたよ。俺がいなきゃこんなことになってなかった。
俺がいるから君はこんなになったんだ。
あの時言ってた通り、俺は君の弱点なんだって分かった」
春 「……」
渚 「だから謝るんだ。あの時君は教えてくれてたのに、それを理解もせずに
放っておいた俺が悪い。目先のことだけで君のこと理解して、
ちゃんと中身を見てなかった。ごめんね」
春 「……」
渚 「でもこれで全部分かったよ。俺が居れば君は大丈夫なんだ。
また逃げ出そうとしても、今度は絶対手放さない。
逃げてもまた追いかけていく」
抱きしめる
春 「……こうして僕はどんどんみっともなくなっていくんですね…」
渚 「俺はどんどん君の事好きになっていくよ」
春 「馬鹿ですね。後悔してもしりませんよ」
渚 「後悔なんかしないから、お願いだからずっとこうしていてくれ」
春 「うん。このまま捕まえててください」
渚 「愛してる」
春 「えぇ。愛してます」
キスをする
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・部屋
ダリオ「おーい。もういいかい?」
ダリオ、ドアを少し開けて中を覗く
春 「まだだよ」
ダリオ「なんだ、まだするつもりか?いい加減に出て行ってくれこの大馬鹿野郎」
笑いながらドアを開ける
春 「君は終わるとさっさと服を着るタイプなのか?アーシアが可哀想だな」
ダリオ「おいおい。なんだ?俺に感謝の言葉もなく憎まれ口ばっかり垂れやがって
君こんな奴でホントにいいのか?」
渚、春を見る
渚 「俺にはこんなこと言わないよ」
笑う
ダリオ「俺にはいつもこんな感じさ。こんな奴はさっさと日本に帰った方がいいと思うね」
春 「残念だったね。僕は海の見える場所に家を建てるんだ。ねぇ、先生?」
渚 「え?あ、そう…」
ダリオ「彼は乗り気じゃないぞ。ハハハハッ!」
春 「先生…」
渚 「ふふっ、楽しみにしてるよ」
春、キスをする
ダリオ「お〜い、ほんとにまだやるつもりか。邪魔者は退散するよ」
笑いながら出て行く
それを見て笑い合う二人
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・海の見える家
庭先で海を描いている渚
コーヒーを入れてくる春
笑って話をしている二人
海をバックにキスをして幸せそうに笑い合う
おわり
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