・河川敷 夕日が沈んで間もない頃 川に膝ほど入って空を仰いでいる武(たける) 後ろから光を当てられ、振り向く 武M 「兄ちゃんは俺を守ってくれた。だから今度は俺が守る」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・自宅 制服姿で学校から帰ってきた武 階段を上って自室へ向かう 廊下の先から聞こえてくる兄の声 兄 「やめて……お願いだから……」 殴る音が聞こえる 武 「……」 自室へ入る武 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・キッチン 夜中、電気をつけないで冷蔵庫から牛乳を取り出し そのまま口をつけて飲む武 飲み終わると戸が開く音がして驚き、動きを止める 武 「……」 兄 「武」 ゆっくり振り向く武 武 「兄ちゃん」 兄 「またそのまま飲んでたの?駄目だよ。ちゃんとコップに入れなきゃ」 言いながら武からパックを取りコップに注ぐ兄 武 「ごめん……」 兄 「電気、つけて大丈夫だよ」 武 「……。あいつは?」 兄 「どっか行っちゃった」 武 「…いつ帰ってくる?」 兄 「さぁ、わからない」 武 「……帰ってこなきゃいいのに……」 兄 「……」 兄、武を見つめる 兄 「そしたら、生活できなくなるだろ」 兄、微笑む 武 「……」 兄 「さぁ、寝よう。もう遅いから」 武 「うん」 兄、キッチンから出て行く ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・廊下 自室のドアノブを掴んで振り向く兄 兄 「おやすみ」 武 「……」 兄 「どうした?」 武 「……一緒に寝よう…」 兄 「……うん」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・自室 兄、武の頭を抱いて眠っている 腕の中で目を瞑る武 武M 「父さんはいない。母さんもいなくなった。 あいつも、いなくなればいいのに。 兄ちゃんだけでいい。 それだけで、十分だ」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・自室 夜明け前、目が覚める武 隣にいるはずの兄の姿が無い 武 「っ──!」 起き上がり、廊下へ出る ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・廊下 兄の部屋の方を見る 耳を澄ますが物音はしない 下へ降りていく ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・キッチン キッチンで弁当を作っている兄 戸が開く音で一瞬ビクリとし、ゆっくり振り向く兄 兄 「武…。どうしたんだ?まだ起きる時間じゃないだろ?」 言いながら安心して微笑む兄 武 「兄ちゃんこそ」 兄 「弁当。作ってたんだ。これお前の」 丁度出来上がった弁当をテーブルの上において包む 武 「ありがとう」 嬉しそうに笑う武 兄 「余ったからこれ朝ごはんに──」 戸の方を見て黙る兄 武 「っ……」 後ろを振り向くと伯父がいる 伯父 「来い」 出て行く伯父 兄 「……」 武 「……」 兄 「これ、食べろよ。あと、弁当忘れずにな」 兄、無理に微笑んでキッチンを出て行こうとする 武 「兄ちゃん」 兄の服の裾を掴んで止める 兄 「学校、遅れるなよ」 武の頭を撫でる その手を掴む武 武 「兄ちゃん。逃げよう。もうこんなところ捨てて、二人でどっか逃げようよ…」 兄 「…──」 兄、手を握り返す 兄 「帰ってきたら弁当の感想、聞かせてくれよ」 武 「……」 兄、二階へ行く ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・自室 制服に着替えている武 着替え終え、廊下へ出る ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・廊下 兄の部屋から聞こえる声 兄 「やだっ……ぅ………やめて……」 殴る音が聞こえる 武 「……」 走り去る武 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・学校の屋上 一人で弁当を食べている武 空を見上げる ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・帰り道 夕暮れ時、一人で歩いている武 武 『いやだ!』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・リビング(回想) 伯父に押し倒されている武 武 「いやだ!やめろ!離せ!」 必死に暴れている 伯父 「うるせぇ、黙れ」 武を殴る 武 「ひっ……やだ、やだ…お母さん…助けて…やだ…」 笑っている伯父 武 「やだ…やだ…怖い……助けて…」 兄 「やめろ!」 学校から帰ってきた兄、叫んで伯父に掴みかかる 兄 「武に触るな!」 伯父 「じゃあお前でいい」 伯父、兄の襟を掴んでリビングを出て行く 兄 「やめろ!離せ!」 武 「兄ちゃん!」 兄を追いかけようとする 兄 「武はそこにいろ!」 武 「兄ちゃん!」 連れて行かれる様子を見てへたり込む 武 「兄ちゃん……」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・兄の部屋 兄、目を覚ますと隣に伯父が寝ていることに気がつく 兄 「……」 起き上がり、床に脱ぎ捨てられた服を拾って着る いびきをかいて眠っている伯父を見る 兄 「……」 部屋を出て行く ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・キッチン 兄、牛乳をコップに注ぎ、飲む コップを流しに置くと、脇に置いてある包丁を見る 武 『兄ちゃん。逃げよう。もうこんなところ捨てて、二人でどっか逃げようよ…』 兄 「……」 包丁を手に取る ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・自宅前 武、門を開けて入ると、玄関を開ける前に二階の部屋を見上げる 電気がついていない ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・キッチン 冷蔵庫を開けて牛乳をそのまま飲む 冷蔵庫の扉を閉め、振り向くと テーブルの上に兄の弁当箱が朝のまま置いてある 武 「……」 走って出て行く ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・廊下 階段を駆け上がる途中、何かが倒れる音がする そのまま、躊躇せず、兄の部屋の扉を開ける ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・兄の部屋 床に座り込んでいる伯父を見下ろしている兄 手に包丁を持っている 手が震えている ゆっくり近づいていく武 兄 「た、ける……」 兄から包丁を奪うと伯父に近づき 躊躇せず腹に刺す 兄 「武」 伯父、武の肩を震える手で押さえる 武、手が濡れているのに気づき 伯父から体を離し、腹に刺さった包丁を持っている手を見る 伯父 「っく……そ……っ」 武 「……」 兄 「たける…武…なんで…」 武、振り返って兄を見る 武 「兄ちゃん」 兄 「救急車……」 兄、部屋を出て行く 開けっ放しのドアの向こうを見ている武 伯父の手がぎゅっと肩を掴む その手に伯父を見る 武 「……」 もう一度刺さっている包丁を見て 柄を握ると腹から抜く 伯父 「っぐ……」 ドサっとその場に倒れこむ伯父 傷口から血が流れ出る それを見ている武 兄 「武っ」 戻ってきた兄が、それを見て驚く が、武を見ると落ちている包丁を拾って 柄を服で拭う 兄 「俺が、俺がやったんだっ…!武は何もしてない」 柄を握って指紋をつける兄 その様子を見て、後ろから抱きつく武 武 「兄ちゃん」 兄 「お前は何にも悪くないから、これは俺がやったんだっ!」 武 「兄ちゃん。弁当、美味かったよ」 兄、動きを止める 武 「兄ちゃん」 兄、振り返って抱きつく 泣いている 兄 「武、逃げよう。二人で。逃げよう」 武 「……」 兄 「ごめん、ごめんな」 武 「……」 遠くからサイレンが聞こえてくる 兄 「っ…」 武 「兄ちゃん」 武、兄の手を離し、立ち上がる 武 「ばいばい」 武、出て行く ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・玄関 兄 「武!」 部屋から聞こえる声に振り向かずに出て行く武 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・街 夕日が沈む街の中を走っていく武 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・河川敷 川の中に入っていく 膝ほどまで入ると手を伸ばして血の付いた手を洗う 水に血が滲んでいく 武 「……」 ゆっくり視線を上げていくと川が真っ赤になっていることに気がつく 武 「……」 そのまま空を見上げて目を瞑る 日が沈む サイレンが近づいてくる ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・警察 警察官と向かい合わせに座っている 手にはめられた手錠を少し動かし音を鳴らす 警察官「──何か、言いたいことはあるか?」 武 「……」 ゆっくり視線を上げる 武 「…兄は、元気ですか?」 おわり |