・倉庫

バイクに乗って幌(あきら)(21)が倉庫に来る
バイクを止めると倉庫の中を覗く
倉庫の中で車の下に潜って整備をしている旭(あさひ)の父

幌  「おっちゃん!旭は?」

幌の声に車の下から出てくる父

父  「おぉ、幌か。あいつならいつものとこにいるはずだ」
幌  「ありがとっ」

幌、笑って手を上げると倉庫を横切って行く

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・農場

幌、走ってくると広い向日葵畑の前で止まる

幌  「……」

向日葵畑を一望するとすぅっと息を吸う

幌  「旭ーーーッ!!」

大声で叫ぶ幌
すると向日葵が揺れる
その方向を見ると旭(20)が走って出てくる

旭  「幌!」

笑っている旭

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・丘の上

丘の上に並んで座っている幌と旭
丘の下には一面の向日葵畑が広がっている

旭  「あ!あれ難波(なんば)さんの戦闘機」

旭、向日葵畑の向こうの空を飛ぶ戦闘機を指差す
戦闘機に厳つい鼠が描かれている

幌  「あー、ほんとだ。まだ乗ってんのかあの人」

笑う幌

旭  「でもまだ日も沈んでないぞ。幌こそ抜け出して来たんじゃないのか?」
幌  「違うよ。今日は昼まで。さっき次の配置決まったんだ」
旭  「え?」

旭、不安気に幌を見る

幌  「前線配置だってさ」

幌、手を組んで指を回す

旭  「……」

旭、向日葵畑を見る

幌  「とうとう来たかって感じだな。なんか実感沸かなくて。皆黙ったまんまなんだもん。
    難波さんも珍しくなんも言わなかったな」

幌、少し笑っている

旭  「いつ?」

旭、静かに問う

幌  「明後日」
旭  「そんなに早いんだ…」
幌  「この戦況だからな。あっちも人足りなくてヤバイんだろ。こんな田舎者借り出されるくらいだからな」

幌、自嘲的に笑う

旭  「もっと田舎だったらよかったな…」

旭、幌、遠くを飛ぶ戦闘機を見る

旭M 「海の向こうの国と戦争が始まって3年。戦況はどんどん悪くなる一方。
    勝てる見込みも殆ど感じられず、この負け戦は何のために行われているのかも分からなくなってきた。
    最前線。行って帰って来られるのはほんの数パーセントだと聞く」

幌  「なぁ旭」

幌、突然旭を見る

幌  「なんか欲しいもんあるか?」
旭  「え?欲しいもの?」
幌  「あぁ。なんでもいいぞ。あー、俺の持ってるもんでだけど」

幌、笑う

旭  「……無いよ。別に」

旭、幌から目線を外して俯く

幌  「なんだよ。なんでもいいんだぞ?あ!俺のバイクやろうか!」
旭  「軽トラがあるからいい」
幌  「んーじゃあ、ギターは?」
旭  「弾けないからいらない」
幌  「そっか…。んーと、あ!あれだ!リビングのソファー!あれいいぞー、昼寝に最適」
旭  「やめろよッ!!」

旭、大声を上げるが幌を見ない

幌  「あ……」
旭  「なんだよ。形見分けでもするつもりか?」
幌  「あー……いや…」

幌、困って頭を掻く

旭  「お前戻ってこないつもりかよ…」
幌  「……」
旭  「馬鹿なこと考えんな……」

旭、悔しげに拳を握り締める

幌  「……」

幌、旭の姿を見て短くため息を吐くと向日葵畑を見る

幌  「俺のもんあげて変わりにお前貰おうかなーって思ったんだけど」
旭  「は…?」

旭、幌を見る

幌  「正直帰って来れないと思ってる。お前とこうしてここで話せることももう無いと思ってる」
旭  「っ……」

旭、ふっと顔を背ける

幌  「だから最後にちょっとだけお願いしよっかなーと思って。でもやっぱなんか献上しないとなと…」

幌、ハハハッと笑う

旭  「何がお願いだよ……バカか…」
幌  「いやー、ほんとバカで…」

旭、突然幌の胸倉を掴むとキスをする

幌  「っ!」

離れると幌を抱きしめる旭
驚いている幌

旭  「ほんとバカだよお前。こんな奴前線なんか行っても役に立つわけ無い。命令取り下げた方が正解だ」

幌の肩口に顔を埋めたまま言う旭

幌  「バカはお前だ。俺のエースっぷりを知らねぇんだな?カッコイイぞー俺」

ふふっと笑うと旭を抱きしめる幌

旭  「知ってるよ」
幌  「そうか」

幌、微笑んで幌の背中を撫でる

幌  「お前が徴兵免除で良かったよ。同じ隊にいられちゃ心配で飛べねぇからな」
旭  「俺はこの体を恨むよ。どうせなら一緒に飛びたかった」

笑う幌

幌  「俺かお前が女だったら帰ってきたら結婚しようって言えるんだけどな…」
旭  「え…?」

旭、驚く

幌  「なんだ?そんなのお断りだって?」
旭  「っ…」

旭、幌の言葉に体を離すと幌の頬に触れてキスをする

旭  「んっ……」
幌  「っ……ん……ぅ…」
旭  「……幌」

旭、自分がつけていたネックレスの皮紐を切ると幌に握らせる

旭  「これ貸してやるから絶対返せ」

旭、幌を真剣な眼差しで見ている

旭  「俺の一番大事なもんだから絶対お前の手で返してくれ」
幌  「……」

幌、右腕につけていたミサンガを噛み切ると旭の右腕に結ぶ

幌  「これも俺の一番大事なもんだ。帰ってきたら取りに来る」

幌、結び終えるとキスをする

幌  「これで死ねなくなったな」

笑う幌

旭  「死なないよ。お前は」

旭、幌を抱きしめる
抱き合ったまま笑い合う二人

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・倉庫(朝)

倉庫に出てくる旭
車の前で工具箱を開けている父が旭に気がつく

父  「なんだ。幌の見送り、行かなかったのか?」
旭  「うん」

旭、言うと外に出て行く
その後姿を少し笑って見ている父

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・向日葵畑(朝)

向日葵畑の中を走っていく旭

旭M 「まだ日が上がる前、あいつのバイクの音が聞こえて外に出た。
    玄関の前に立っていた戦闘服姿の幌は何も言わずに笑って手を振った。
    一言も会話は交わさなかった。去り際に光った首元にいい加減に結んだ皮紐が見えた」

向日葵畑の真ん中で息を切らして立ち止まると
空を見上げる
遠くの空を飛んでいく5機の戦闘機

旭M 「厳つい鼠の後ろに続く黄色い鬣のライオンが、少し笑っているように見えた」

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・機内

難波 『おい。聞いたか?』

無線が入る

幌  「なんです?」
難波 『前線の岬にはゴールドヒルっていう異名があってな』
幌  「ゴールドヒル?」
難波 『一面向日葵畑なんだってよ』

難波、笑う

幌  「向日葵畑…」
難波 『あぁ。天国みたいに一面お花畑らしいぜ』
幌  「それは…」

幌、呆れたように笑う

難波 『ホラ!見えてきたぞ!』

幌、遠くに黄色い絨毯を見る

幌  「こんな騒がしい天国では死ねないですよ。俺はあの田舎の向日葵がいい」

幌、笑う

難波 『おっし。よく言った。絶対帰るぞ』
幌  「えぇ」

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・丘の上

旭、一人で座って向日葵畑を見ている
辺りは暗く、遠くの雲間に稲光が光る

旭  「……」

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・機内

難波 『おい!大丈夫かッ!?』

無線が入る

幌  「なんとか。裕也(ゆうや)は?」
裕也 『あぁ!大丈夫だ!』
難波 『よし。お前らよーく聞け。本部から連絡が入った。これを乗り切れば終戦だ』
幌  「終戦?」
難波 『あぁ。家に帰れるぞ!』
裕也 『とうとう降伏ですか…』
難波 『負けは負けだ。だが俺たちはあの田舎に帰ってヒーローになる。
    いいか?数パーセントだなんて言わせねぇ。100%で帰るぞ!』
幌  「分かってますよ!」

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・丘の上(回想)

旭(16)と幌(17)が座っている

旭  「俺も戦闘機乗りになりたかった……」
幌  「仕方ねぇだろー。無理なんだから」
旭  「俺も一緒に飛びたかったのに…」
幌  「なーに言ってんだよ。今はまだいいけどなー、戦争にでもなってみろ。きっとならなくてよかったーって思うぞ」

笑う幌

旭  「思わねぇよッ!」
幌  「俺は思うよ」
旭  「え?」
幌  「お前のこと心配で飛べなくなりそうだからな」

茶化して旭の髪をぐしゃぐしゃにする幌

旭  「バカッ!!」

笑う幌

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・丘の上

雷が鳴り響いている
膝を抱えて座っている旭

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・機内

撃ち合っている
すると突然エラー音が鳴り響く

幌  「な、なんだ?」

計器を見る幌
レーダーがエラーになっていて敵機が表示されない

幌  「クソッ!!どうして!」
難波 『おい!どうした!?』
幌  「レーダーが表示されません!」
難波 『何っ!?よし!俺が援護してや──』
裕也 『幌!後ろ!!』
幌  「っ──!」

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・丘の上

稲光が空を横切り落ちる
轟音が鳴り響く

旭  「っ……!」

雨が降り出す

旭  「……幌…」

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・リビング(朝)

ソファに座っている父
ラジオが流れている

ラジオ『──発表によりますと、終戦宣言による最前線に配置された全兵士の撤退』

そこへ旭が来る

ラジオ『しかし壊滅的とされる空軍隊の戦死者数は──』

旭  「っ……」

旭、走って家を出て行く

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・向日葵畑(朝)

走っていく旭

幌  『正直帰って来れないと思ってる。お前とこうしてここで話せることももう無いと思ってる』

旭  「はっ……はぁっ……はぁっ…」

幌  『だから最後にちょっとだけお願いしよっかなーと思って』

旭  「はぁっ……はぁ、はっ……」

幌  『俺かお前が女だったら帰ってきたら結婚しようって言えるんだけどな…』

旭  「ハァッ…!はぁっ…はぁっ……はっ……っ!」

旭、向日葵に躓いてこける

旭  「はぁっ…はぁ、はっ……っぅ……ぅ…」

涙が零れ落ちる

幌  『これも俺の一番大事なもんだ。帰ってきたら取りに来る』

旭  「うぁぁっ……うっ…ぇ……あき、らっ……幌っ…!!」

旭、土を殴る
黄色い一面の向日葵畑の中に旭の泣き叫ぶ声が響く

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・寝室(早朝)

旭M 「夢を見た──」

バイクの音が聞こえる
飛び起きる旭

旭M 「あの朝と同じ、あいつのバイクの音が聞こえて」

外に出て行く旭

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・玄関(早朝)

玄関を勢いよく開ける旭

旭M 「急いで外に出たら綺麗な戦闘服着た幌が笑って手を振った」

旭、幌に向かって走っていく

旭M 「強く抱きしめようとしたら、あいつは消えた」

幌を抱きしめると消える
両腕を見る旭

旭  「幌……」

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・向日葵畑

向日葵畑の真ん中で空を見上げている旭

旭M 「終戦宣言から一ヶ月──…」

農場で使われている小型プロペラ機が真上を飛んでいく

旭M 「誰も帰って来ない」

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・丘の上

上ってくる旭

旭M 「戦争はもう終わったのに。なんで帰って来ないんだ。約束したのに。取りに来るって言ったのに」

丘の上から向日葵畑を一望する

旭M 「好きだとも、言えなかった……」

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・倉庫(朝)

旭  「親父。畑見てくるからー」
父  「おう」

旭、倉庫を出て行く

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・農具入れ(朝)

旭、鍬を持つ

幌  「旭ーーーッ!!」

声が聞こえる

旭  「っ……」

旭、鍬を落とすと走って出る

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・農場(朝)

外に出ると向日葵畑に向かって松葉杖をついて立っている幌を見つける

旭  「幌……」

旭の声にこちらを見る幌

幌  「あ、なんだこっちか」

旭、走っていくと抱きつく
その衝撃で転びそうになる幌

幌  「おっと…」
旭  「死んだんじゃなかったのか……」

幌、笑う

幌  「ごめん。生きてた。ハハハッ」
旭  「馬鹿野郎もっと早く…!」

旭、幌を見上げる
すると松葉杖を放す幌
旭を抱きしめる

幌  「約束守りに来たぞ」
旭  「あぁ」

笑い合う二人









おわり