・住宅街(夜)(回想)

瑞樹(みずき)、一樹(かずき)の少し後ろを歩いている
楽しそうにしている一樹、振り返ると笑う

一樹 「みっちゃん。俺みっちゃんのことめっちゃ好きやで」

瑞樹、照れる

瑞樹 「な、なんやねん急に…」
一樹 「ふふ、なんか言いたくなった」
瑞樹 「あっそう」
一樹 「ずっと一緒におりたいな。ずっと」
瑞樹 「あぁ」

瑞樹、笑う

瑞樹M「これは十年前の記憶」

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・病院前

車から出てくる瑞樹
病院の中へ入っていく

瑞樹M「俺と一樹はおんなじ病院で生まれた。誕生日は一日違い。一樹の方が一日早い。
    それから俺らはずっと一緒で、高校までおんなじ学校に通った」

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・病室前

病室から一樹の母親が出てくる
瑞樹に気がつく母親

母親 「お昼休み?」
瑞樹 「うん。弁当一緒に食おうと思って」

弁当箱を持ち上げると笑う瑞樹

母親 「私これから仕事やねん」
瑞樹 「そっか。頑張ってな」
母親 「……瑞樹くん。今日はお仕事何時に終わんの?」

母親、少し目線を逸らす

瑞樹 「いつも通り6時やけど…。どうしたん?なんかあった?」
母親 「話したいことあんねん。お仕事終わったらうち来てくれへんかな」
瑞樹 「うん…。分かった」
母親 「じゃあな、お昼からも頑張って」
瑞樹 「おばちゃんも」

母親、笑うと去っていく
瑞樹、病室のドアを開ける

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・病室

病室に入ってくる瑞樹

瑞樹 「おーい、来たぞー」

笑いながらベッドの傍に座る瑞樹
一樹、ベッドに寝ている

瑞樹 「今日も顔色いいな。よかったよかった」

瑞樹、一樹の頬に触れると微笑む

瑞樹M「ずっと一緒におるのが当たり前で、それは死んでも変わらんことやと思ってた。
    俺らが友達以上になったんは、中学を卒業した後で一樹は当然のように笑って俺に好きってゆった。
    そんな俺らも今年で二十八になる」

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・一樹宅(夜)

リビングのソファに座っている瑞樹と母親

瑞樹 「おっちゃんは?」
母親 「うん。ちょっとな、今日は飲んでくるって」
瑞樹 「そっか」
母親 「……」
瑞樹 「おばちゃん、話って?」

母親、瑞樹を見るがまた俯く

母親 「一樹のことでな」
瑞樹 「…俺のことは気にせんでいいよ。俺が好きでやってることやから」
母親 「そのことには感謝してるんやで。十年もあの子の為にお金入れてくれるなんか。感謝してもしきれんことや」
瑞樹 「一樹のためやから」
母親 「……」

母親、額を押さえて俯く

瑞樹 「おばちゃん…?」

母親、涙を零す

母親 「こんなこと言葉に出すんも嫌やわ…」
瑞樹 「え?」
母親 「でももう十分に話し合ったことやねん…」
瑞樹 「おばちゃん?」
母親 「瑞樹くん」

母親、瑞樹を見る

母親 「一樹の延命処置を停止することに決まった」
瑞樹 「え……」

瑞樹、呆然とする

母親 「あの子の目が覚めへんようになってからもう十年」
瑞樹 「そうや…」
母親 「十年経ったんや…」
瑞樹 「そうや十年や。たったの」
母親 「……」
瑞樹 「あいつまだ生きてんねんで!?大丈夫やって!もうすぐ目、覚めるから!」
母親 「瑞樹くん」
瑞樹 「一樹はまだ生きてる。手だってあったかいし、心臓だって動いてる。ただ目が覚めへんだけや」
母親 「なんも出来ひんのに、寝てるだけやのに、それがあの子の望んでることなんか…?」
瑞樹 「なんでそんなこと言い出すん…お金やったら俺が払うから。世話やって全部俺がやる。
    だからそんなこと…」
母親 「あかん」
瑞樹 「え…?」
母親 「もう十年や。あんたがあの子に縛られて」
瑞樹 「……」

瑞樹、目を見張る

母親 「あんたはちゃんと生きてる。あんたにはちゃんと進むべき道があるんや。
    一樹がおるからあんたは立ち止まったままなんや」
瑞樹 「俺そんなこと…」
母親 「一樹はそんなこと望んでへん。なぁ、瑞樹くんもう決めたことやねん」
瑞樹 「そんな……」

俯く瑞樹、手が震えている
その姿を見て涙を流す母親

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・瑞樹宅前(夜)(回想)

瑞樹 「バイト先まで送っていったろか?」

笑いながら家の前に立っている瑞樹
一樹、笑う

一樹 「アホ。女の子じゃあるまいし。んじゃな」
瑞樹 「あぁ、頑張ってこい」
一樹 「はいはーい」

一樹、手を振りながら去っていく
後姿を見ている瑞樹
一樹、振り返ると笑う

瑞樹 「?どうしたん」
一樹 「まだ見てると思った。ハハッ。めっちゃ好きやでみっちゃん」

一樹、笑うと去っていく

瑞樹 「ふっ。おい一樹!」
一樹 「はーい?」
瑞樹 「俺もめっちゃ好きやで!」

瑞樹、からかうように叫ぶ

一樹 「やめろ!恥ずかしい!じゃあな〜」

一樹、笑いながら歩いている

瑞樹M「これが最後に交わした俺らの会話」

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・一樹宅前(夜)

車の運転席に座って頭を抱える瑞樹

瑞樹M「俺にとってこの十年はあっという間の十年やったんか、それとも長い十年やったか。
    俺自身よく分からん。ただ一樹の為に働いて、一樹の寝顔を見て過ごす。
    それは普通の夫婦と変わらんことなんじゃないかと思ったことがある。
    疲れて帰って来て、愛しい人の寝顔を見て安心する。
    それとなんも変わらんことやって。俺はそう思った。
    だから俺のこの十年は辛いことだけじゃなかった。それは一樹が生きてるからや」

瑞樹 「…ぅ…っ……クソッ!!」

泣きながらハンドルを殴る瑞樹

瑞樹M「もう目が覚めへんって、誰が決めるんや。もしかしたら明日目が覚めるかもしらんのに。
    一樹が笑ってくれるかもしらんのに」

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・病室

静かな病室のベッドの横に座っている瑞樹
一樹の手を握っている

瑞樹M「でもおばちゃんの言葉が真意の言葉じゃないって分かった。
    それは何となくやったけど、おばちゃんも一樹を失いたくないのは当たり前のことで、
    十分に話し合って決めたことなんやって。
    おっちゃんがあの場におらんかったのも分かる。あの人は俺にこんな話できる強い人じゃない」

瑞樹、一樹の唇に触れる

瑞樹 「一樹……。好きやで」

瑞樹、そっとキスをする

瑞樹M「俺の時間は確かに止まったままやった。十年前のあの日から、なんも変わらんまま──…」

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・街(夜)

会社帰りの瑞樹、前から歩いてくる一樹の父親を見つける

父親 「よぉ」

手を上げる父親

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・居酒屋(夜)

小さな居酒屋のカウンターに並んで座っている瑞樹と父親

父親 「いやぁ、みっちゃんも大きなったなぁ…」

お猪口片手に笑っている父親

瑞樹 「はははっ、大きなったってもう俺もおっさんですよ」
父親 「もう二十八かー。酒飲める歳なんやもんなぁ」
瑞樹 「8年前からね」

笑って父親のお猪口に酒を注ぐ瑞樹

父親 「そうやなぁ。俺夢やったんや」
瑞樹 「夢?」
父親 「息子となー、二人で酒飲むのがなぁ」

父親、言いながら目に涙を溜めている
それを見て目を逸らす瑞樹

父親 「一樹と酒飲みたかったんやー」

父親、涙を拭う
瑞樹、突然父親の肩を抱く

瑞樹 「俺も息子みたいなもんやろ」
父親 「あぁ……ずっと一緒やったもんな…二人な…」
瑞樹 「うん」
父親 「みっちゃん…俺…許してくれ…」
瑞樹 「え…?」
父親 「正解なんかわからんねん…っ……死ぬまできっとそうや」
瑞樹 「おっちゃん…」
父親 「これで正しかったなんか……」

瑞樹、黙って父親の肩を叩く

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・自宅(夜)

リビングのソファに座って写真を見ている瑞樹
一樹と笑っている写真が沢山ある

瑞樹M「一樹はいっつも笑ってた。おっちゃんが『店の養分になった…』って肩落として
    帰って来た日も笑ってそれをバカにしてた。
    でもその笑顔はもう戻らん」

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・瑞樹宅(夜)(回想)

ソファに寄り添って座っている二人

一樹 「みっちゃん。俺なー、生まれてきた一日目は多分寂しかったと思うねんなー」
瑞樹 「はぁ?なに、覚えてるとか言うんちゃうやろ?」
一樹 「いや、確信できる」
瑞樹 「なんで?」
一樹 「だって俺みっちゃんおらんかったら寂しいもん」
瑞樹 「ふっ」

バカにしたように笑う瑞樹

一樹 「だから一日目は寂しかってん。なんでおんなじ日に生まれてくれへんねんーって」

笑う一樹

瑞樹 「アホ。ゆっとくけどなー、俺の予定日一週間先やってんぞ?」
一樹 「じゃあな」
瑞樹 「お前の為に早く生まれたってんやろ」

笑う瑞樹

一樹 「はははっ」

笑い合う二人

一樹 「ずっと一緒におろな」
瑞樹 「うん」
一樹 「爺さんになって死ぬときも二人一緒がいいな」
瑞樹 「はははっ、道連れか」
一樹 「あ、ちゃうな。俺の方が一日長く生きてるから、みっちゃんは俺の次の日」
瑞樹 「なんで」
一樹 「俺の寂しかった分。二人一緒」
瑞樹 「そうやな」

キスをする二人

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・病室

医者と看護士、母親と父親、瑞樹がいる
ベッドに眠っている一樹

瑞樹M「なぁ、一樹。ここで土下座してお前の命、繋ぎとめた方がいい?」

瑞樹 「……」

瑞樹M「そんなら俺とお前、ずっと一緒におれる。
    俺はずっとここから離れへん。お前の為に働いて、お前の為に生きてるわ。
    でも今、スイッチが切られるだけでお前は遠くに行ってしまう。
    一日の差がなくなんねん。
    なぁ、一樹。どうすればいい?」

医者 「十一月二十一日。午後5時。死亡確認しました」
瑞樹 「……」

母親、静かに泣いている
その隣で拳を握り締め泣いている父親
瑞樹、ただ一樹を見ている

瑞樹M「あの日の後姿、今でも思い出せるわ──」

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・車

瑞樹、運転している

瑞樹M「あの日の言葉、今でも思い出せる」

一樹 『めっちゃ好きやでみっちゃん』

瑞樹M「ずっと一緒やった。ずっと傍におった。これからもずっとそうやと思ってた。
    俺達はずっと一緒やから──」

ラジオ『先週からお送りしています。「I Love Youをあなたに」
    さて今日が最終日となりました。
    十一月二十二日、「いい夫婦の日」ということでこのコーナーも今日で最後です。
    様々な「I Love You」、「愛してる」の曲を紹介させていただいたのですが
    本日最後の曲はもう定番ですね。「I Love You」といえば皆さんこの曲を思い浮かべるのでは
    ないでしょうか?
    それではお送りしましょう、尾崎豊で「I LOVE YOU」』

ラジオから尾崎豊の「I LOVE YOU」が流れる

瑞樹 「……」

曲が終わると同時に涙が一筋流れる

ラジオ『5時をお知らせします』

ポ、ポ、ポ、ポーンと時報が鳴った瞬間
車の前に一樹を見る

瑞樹 「っ……」

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・街(夜)

ガードレールに突っ込んでいる車
救急車のサイレンが辺りに響いている

瑞樹M「好きやで。一樹」









終わり