・ダイニングキッチン

扉を開けて帰ってくる隆樹(たかき)

隆樹M「二日ぶりに帰ったら、みかんを持った透哉(とうや)が、冷蔵庫の前に座り込んでいた」

隆樹 「何してんの?びっくりした…」

ゆっくり隆樹を見上げる透哉

透哉 「あ、隆樹」

ソファに荷物を置く隆樹

隆樹 「みかん。どうしたの」
透哉 「これね、もう駄目になってた」
隆樹 「うそ。冷蔵庫に入れてても駄目だった?」
透哉 「うん。隣の奴とくっついて、ねちゃって。だから他のも見たら何個か駄目になってた」
隆樹 「そっか」

言うと部屋を見回す
ダンボールが置かれている

隆樹M「ソファに座ると、部屋の雰囲気が変わっているのに気がついた。
    ダンボールが、沢山ある」

隆樹 「…。透哉」
透哉 「あと、りんごもね。あったけど。ここ、黒くなってて」
隆樹 「透哉」

隆樹M「透哉はいつもより、ゆっくり話す」

透哉 「そしたら、何もなくなって」
隆樹 「透哉」

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・ダイニングキッチン(回想)

透哉がダンボールを抱えて帰ってくる

透哉 「隆樹!ちょっと手伝って!」
隆樹 「何、そのダンボール!どうしたの!?」
透哉 「和歌山から送ってきた。母さんが」
隆樹 「また!?食いきれないって!」
透哉 「なんかこれしか送るもんないって。どうする?」
隆樹 「…」
透哉 「みかんは夜ご飯になんないし」
隆樹 「食うしかないだろ?」
透哉 「ぷっ」

二人、笑いあう

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・ダイニングキッチン

隆樹 「話、しよう」
透哉 「…」
隆樹 「…」
透哉 「俺、別に話すことなんかないよ」
隆樹 「…」

隆樹、ため息をつく

透哉 「夜ご飯、材料ないからお弁当にしようか」

隆樹M「どっちが悪いとか、そんな話じゃない」

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・寝室(回想)

透哉、眠っている
その上にのしかかる隆樹

透哉 「はっ…隆樹?どうしたの」
隆樹 「明日何時から?」
透哉 「午後から」
隆樹 「じゃあいい?」
透哉 「あ、あの、今日は駄目。明日草野球」
隆樹 「どこ」
透哉 「ピッチャー」
隆樹 「…。誰が決めたの」
透哉 「み、みんな?」
隆樹 「はぁ…」
透哉 「ごめん、断れなくて…」
隆樹 「いいよ。抜けれたら見に行くから」

離れようとする隆樹

透哉 「あ、待って」
隆樹 「ん?」
透哉 「そのままでいて?」
隆樹 「…」
透哉 「俺、毛布の上から抱きしめられるの一番好き」
隆樹 「それは直接が嫌ってこと?」
透哉 「違うよ。なんかね、一番気持ちいい」
隆樹 「…」
透哉 「…怒った?」
隆樹 「怒ってないけど、俺生殺し」
透哉 「あははっ」

二人、笑う

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・ダイニングキッチン

透哉、立ち上がって出て行こうとする
追いかけて手を取る隆樹

透哉 「…」
隆樹 「透哉。話しよう」
透哉 「…離せよ」
隆樹 「嫌だ。このままじゃ駄目だ」
透哉 「夜ご飯、食べてからでもいいだろ?」
隆樹 「駄目だよ。そうやって俺達、ずるずるしてた。今までずっと」
透哉 「…」
隆樹 「このままじゃあ、駄目だ」
透哉 「…ずっと…」

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・寝室(回想)

隆樹、黒のシャツを羽織る
ベッドに座ってそれを見ている透哉

透哉 「あ、俺その服好き」
隆樹 「え?なんで」
透哉 「俺ね、黒のシャツとか着ちゃう人好きなの」
隆樹 「…」
透哉 「あんまり居ないんだよ」

隆樹、シャツを脱ぐ

透哉 「あ、あれ?なんで脱いじゃうの」
隆樹 「なんかやだ…」

透哉、隆樹に近づいて、持っていたシャツを取り
もう一度着せる

透哉 「なんで?」
隆樹 「だって、なんか…」

透哉、ボタンを閉める

透哉 「俺が好きって言ってるのに」
隆樹 「…っ」

透哉、抱きしめて背中を触る

隆樹 「透哉?」
透哉 「あのね、見てるのも好きだけど」
隆樹 「何」
透哉 「手触りが好き」
隆樹 「透哉っ…」

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・ダイニングキッチン

透哉、床に座り込む
隆樹、透哉の腕を掴んだままでいる

隆樹 「透哉」
透哉 「…っ…ずっと…だったの」
隆樹 「…」
透哉 「俺達、お互い好きだったんじゃなかったの」
隆樹 「好きだったよ」
透哉 「…」
隆樹 「好きだった」

隆樹、透哉の腕を掴む力が強くなる

隆樹M「何がいけなかっただとか、どこかですれ違ったとか、
    そんなもの、数えだしたらきりが無いし、それに、どこかだなんて
    線引きは、きっと誰にも出来ない。本人同士でも、わかりっこない」

透哉 「たか…き…」

透哉、涙の溜めて隆樹を見上げる

隆樹M「引き止めたいのか、ただ一人になるのが寂しいだけなのか。
    そんなことだってわかりっこない」

隆樹 「もう、終わりにしよう」

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・ダイニングキッチン

家具一つ無い部屋の真ん中に、二人立っている

透哉 「あのストーブ、つけてたらどんどん暑くなるから気をつけてね」
隆樹 「うん」
透哉 「これ、迷惑だろうけど」

みかんの入った袋を渡す透哉

隆樹 「ありがとう。おばさんにもお礼言っといて」
透哉 「うん。放っておいたら全部駄目になっちゃうからね」
隆樹 「うん」

隆樹M「あの日帰ってきて、先に荷造りしていたのは透哉だったのに、
    どうしてあいつは止めようとしたのか、
    俺は今でもわからない。
    でもそれが一生分からないわけでもない。
    このまま違う道を行くけれど、その先が交わらないなんてこともない。
    人間ってそんなもんだ。
    だから今は別々に生きていく。
    過去も悔やまない。楽しかった日々はあった。
    みかんのように、離してうまくいくこともある」

透哉 「じゃあね」
隆樹 「あぁ。元気で」

笑う二人










おわり