・庭

屋敷の二階窓から外を見ている稜耶(りょうや)

都M 「藤枝蒼志郎(ふじえだそうしろう)様はそれはそれは有名なお方でした。
    山のふもとに構えられた大きなお屋敷はとても立派なもので、
    しかしそこには蒼志郎様と、家政婦の私、それに見習いの稜耶様だけしか住んではおりませんでした」

都M 「拾われた稜耶様と蒼志郎様は仲睦まじく、
    とてもとても、幸せな暮らしを送られていたのです」

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・墓地

薄暗い空の下、蒼志郎の墓がある

都M 「しかし、幸せなお二人の生活は長くは続きませんでした。
    先日、蒼志郎様が急な病に倒れられ、そのまま息をお引取りになられたのです。
    悲しみに明け暮れた稜耶様の元に現れたのは、蒼志郎様のご親族の方々──」

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・居間

広い居間のソファに座っている藤次(とうじ)、峯子(みねこ)、辰巳(たつみ)、怜亜(れいあ)

都M 「蒼志郎様のご兄弟であらせられる、
    次男の藤次様、長女の峯子様、三男の辰巳様、次女の怜亜様。
    この四人のお方は確かに蒼志郎様のご兄弟でありましたが、
    誰一人、血の繋がったお方はおりませんでした」

吹き抜けに繋がる廊下に出てくる稜耶

都M 「若くして財を成し、若くして亡くなられた蒼志郎様。
    そのご遺産はうん百億にものぼるものでした。
    奥様も、ご子息も作られなかった蒼志郎様のご遺産は、
    当然ご親族の方へと渡るものだと、ここにいる誰もがそう思っていたのです。
    それは私も、稜耶様も同じでした」

廊下に現れた稜耶を一斉に見る

都M 「しかし、亡くなられた蒼志郎様の遺言状には、
    すべての物を稜耶様にと書かれていたのです。
    そして納得のいかないご親族の皆様は、もう主人の居なくなった
    この屋敷に、かれこれ一月滞在し続けていました──」

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・居間

廊下に居た稜耶、下の様子を見るとまた部屋に戻ってしまう
そこへ都(みやこ)がお茶を用意して入ってくる

峯子 「あの坊やは話も出来ないのかしら?」

呆れて言う

都  「……」
藤次 「あんな様子じゃあ、この屋敷も、何もかもすべて無駄なんじゃないか?」
辰巳 「まったく、兄さんも何を考えているんだか」
怜亜 「所詮はあの男娼にいいように騙されただけですわ」
峯子 「あなたも早く他のお仕事を探した方がよくってよ。
    私はあなたみたいな使用人、雇うつもりはありませんから」

都、お茶をテーブルに移す

都  「私も蒼志郎様以外のお方にお使えする気はございません」
怜亜 「そのご主人様はもういないというのに?」

笑う

都  「蒼志郎様に稜耶様のお傍にいるようにと言われていますので。
    たとえ稜耶様があなた方とお話なさっても初めにお話されたように
    蒼志郎様のご遺言通りにいたします。
    これ以上話すことはございませんので、早々にお引き取りくださいませ」

礼をして居間を後にする

峯子 「まぁ」
辰巳 「ここには馬鹿しかいないのか?」

笑う四人

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・寝室

ノックの後、都が夕食を持って部屋に入ってくる
ベッドに寝ている稜耶

都  「稜耶様。お夕食でございます」
稜耶 「……」

起き上がる
都、傍に行く

稜耶 「食べる気になれない……」
都  「今夜は稜耶様の大好きなクラムチャウダーですよ?」

微笑む都

稜耶 「……」
都  「……。それなら仕方ないですね。もったいないですが、これは処分してしまいます」

都、俯く

稜耶 「だ、だめだよ…。食べるから、そんなことしちゃ駄目だ…」

都の頭を撫でる稜耶
それを聞くと顔を上げ、笑う都

都  「そうですか。それはよかった。まだまだ沢山あるんですよ?
    稜耶様に食べてもらえないとお野菜やお肉が悲しむところでした」
稜耶 「……、それに、蒼志郎に怒られる…」
都  「そうですね」

微笑むと布団を剥がし、ソファの方へ誘導する都
ソファに座ると机に置かれた食事に手をつける稜耶

稜耶 「あの人たちはいつまでいるんだろう…」
都  「……やはり警察に連絡を入れられてはどうですか…?」
稜耶 「……」
都  「蒼志郎様の遺言状は確かなものですし、おかしなことを言ってられるのはあちらの方々です。
    稜耶様は何も悪くないのですから」
稜耶 「…わからないんだ……」

スプーンをスープ皿に置く

稜耶 「あの人たちの話を聞いているとそれが本当のような気がしてならなくなる。
    だって僕は蒼志郎の家族じゃあない……」
都  「!稜耶様」

稜耶の手を取る都

都  「そんなことを言われては蒼志郎様が悲しまれますよ!
    都が見る限り、あなた方お二人はそれはそれは幸せなご家族でした!」

稜耶、驚くがその後微笑む

稜耶 「都は僕たちのお母さんだもんね……」
都  「そうですよ。だからそんなことを言ってはいけません。わかりましたね?」
稜耶 「うん。わかったよ」

またスープを口に運ぶ

都  「私が何とかしますから。あなたはしっかり食べて元気になってください」
稜耶 「うん」

食事をしている稜耶
それを見守っている都

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・寝室(回想)

ベッドで寝ている稜耶、それを抱き込んでいる蒼志郎
朝の日差しに目を覚ます稜耶

稜耶 「……ん…ここ……あぁ!」

飛び起きる

稜耶 (も、もう朝だ…!僕昨日あのまま寝てしまって……)

床に散らかった服を拾おうとする

稜耶 (は、早くしないと都に怒られるっ!)

腕をつかまれる

稜耶 「っ!」
蒼志郎「こんな朝早くに急いでどこへ行くんだい?」

目を覚まして笑っている蒼志郎

稜耶 「早く戻らないと都に怒られるよ!」
蒼志郎「大丈夫さ。それよりこんなにいい朝を二人でいられないなんて悲しすぎる」

笑いながら腕を引いてベッドに戻らせる

稜耶 「だっ、だめだよ!絶対怒られちゃうから!今度こそはって!」
蒼志郎「だったら俺が代わりに怒られてやるさ。何をしでかしたんだ?」

稜耶を抱き寄せ、髪を撫でる

稜耶 「そ、それは──」

ドアが急に開き、都が怒りながらベッドに近づいてくる

都  「蒼志郎様!いい加減にしてください!!」
稜耶 「あぁぁ……」
蒼志郎「ん?何をそんなに怒ってるのかな?こんなにいい朝なのに可愛い顔が台無しだよ」

優雅に寝そべっている蒼志郎
その胸倉を掴む都

都  「稜耶様をきちんとした時間に眠らせろと何度言えばわかるのですか!!」
蒼志郎「へ…?」
稜耶 「……」

頭を抱えている稜耶

都  「家政婦見習いとして私の元に置いたのはあなたでしょう!
    その私のいい付けを聞かせないとはどういうことです!
    だから私は言ったのです!お遊びも大概にしてくださいませ!
    稜耶様はあなたのような不規則な生活にはさせませんよっ!!」

激怒している都

蒼志郎「あ、あれ〜?稜耶が怒られるんじゃ……?」

稜耶を見る蒼志郎

稜耶 「だ、だから怒られるって……蒼志郎が……」
蒼志郎「お、俺…?」
都  「そうですよ!私はあなたに怒っているのです!」
蒼志郎「だ、だって俺もう稜耶がいないと安眠できな──」
都  「そうでしょうとも!」
蒼志郎「ぅっ…」
都  「あなたばかりが安眠していてはいけません!」
稜耶 「あ、あの…都……。僕ちゃんと寝てるよ…?」

都、表情を変え、悲しむ

都  「稜耶様は…ぅぅ……蒼志郎様に逆らえないから……」
蒼志郎「おいおい!俺は別に強要してな──」
都  「私はすべて把握しておりますよ!!」
稜耶 「む、胸張って言われると……」
蒼志郎「あーもう都怖〜い」
都  「そうです私は怖いんです!さっ、お二人ともベッドから出てください!
    そして顔を洗ってお食事ですよっ!」

二人を促す

蒼志郎「は〜い……ったく、都にはかなわねぇなぁ…」
稜耶 「だから言ったのに…」
蒼志郎「そうだ!」

手をポンとする

稜耶 「?」
蒼志郎「稜耶の寝室、もうなくしちゃおう!」
稜耶 「え?どうして?」
蒼志郎「だってもう必要ないだろ?ずっとここで寝てれば都に文句──」
都  「許しませんっ!!」

仁王立ちして怒る都

稜耶 「だって」

笑う稜耶

蒼志郎「うぅぅ……俺の命令には逆らえないはずなのにー……」

稜耶に泣きつく蒼志郎

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・ダイニング(回想)

食事をしている三人
しいたけを見て固まっている稜耶

蒼志郎「ん?稜耶、まだしいたけ食べられないのか?」
稜耶 「だって……美味しくないんだもん…」
都  「あら?それは私の味付けの問題でしょうか?」
稜耶 「ち、違うよ!都の料理は美味しいけど、それを上回ってるんだこいつは…」

俯く稜耶

都  「何か工夫しませんとね…」
蒼志郎「稜耶、残しちゃだめだぞー」
稜耶 「えぇー……」
蒼志郎「元気に元気に育った野菜たちを俺達は食べさせてもらってるんだ。
    それを嫌いだからって粗末に扱っちゃ野菜たちに怒られちまう。
    だから残しちゃダメ」
稜耶 「ううう……」
蒼志郎「それに、案外美味しいと思って食ってみると美味しいんだぞ?」

しいたけをヒョイと食べながら言う

稜耶 「ほんとに……?」
蒼志郎「あぁ。ほんと」
稜耶 「……」

しいたけを箸で掴む

稜耶 「美味しい。しいたけは美味しい。こいつは美味しい」

食べる

稜耶 「……」
蒼志郎「うまいだろ?」

稜耶、悲しい顔をする

稜耶 「やっぱり美味しくない……」
蒼志郎「ハッハッハッ!そうか!まっ、すぐに慣れるさっ!」
稜耶 「ぅぅぅ……」

笑う蒼志郎と都

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・寝室

ベッドに入る稜耶、布団をかぶせる都

稜耶 「本当は、お金なんかあの人たちに全部渡しちゃってもいいんだ」
都  「稜耶様…」
稜耶 「でもお金がないと都に払うお給料がなくなるでしょう?」
都  「稜耶様!私はお給料など貰わなくとも、あなたのお傍にずっと仕えるつもりです!
    蒼志郎様とそうお約束しました……」

都、悲しい顔をする

稜耶 「ほんとに…?」

驚く稜耶

都  「えぇ。本当です。それに私はもう他に行くあてもございません。
    稜耶様がお傍に置いてくれないとなると、困ります」
稜耶 「そっか……」
都  「そうですよ。そんなことを考えてられていたんですか。
    私のことはどうか心配なさらず」
稜耶 「ありがとう都」

微笑んで窓の方を見る稜耶

稜耶 「お金なんか……残してくれなくてよかったのに……」

都、稜耶の悲しげな表情に手を取りぎゅっと握る

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・居間(回想)

客人(女)と話をしている蒼志郎
それを吹き抜けの廊下からそっと見る稜耶

稜耶 「……」
稜耶 (随分仲がいいな……)

寝室へ入っていく

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・寝室(回想)

ソファに座って窓の方を見ている稜耶
そこへ蒼志郎が入ってくる

蒼志郎「あれ〜?どうしてここにいるのかな?そんなに俺が恋しかったのか?」

ニヤニヤ笑いながら稜耶の傍へくる蒼志郎
稜耶、蒼志郎の方を見ない

稜耶 「蒼志郎がここで待ってろって言ったんだろ」
蒼志郎「俺はベッドで待ってろって言ったんだけどな」

笑いながら隣に座り、稜耶の顎を引く

稜耶 「……」

目を合わせない

蒼志郎「何が気に食わないんだ?」
稜耶 「何も」
蒼志郎「じゃあどうして目を合わせない」
稜耶 「……」
蒼志郎「稜耶」

俯いている稜耶

蒼志郎「稜耶、猫だって目を見るんだぞ」
稜耶 「え?」

稜耶、一瞬蒼志郎を見るがふっとまた逸らす

蒼志郎「猫だって目を見て話をするんだ。それなのにお前はできないのか?」
稜耶 「……そういうわけじゃ…」
蒼志郎「何をそんなに怒ってるんだ」
稜耶 「……蒼志郎が…」
蒼志郎「俺が?」
稜耶 「客人と仲よさそうだったから……」

蒼志郎笑う

蒼志郎「そうかそうかそうか」

稜耶を抱きしめる

稜耶 「なっ、や、やめろ……」

照れる稜耶

蒼志郎「もう稜耶は可愛いなぁ〜」

デレデレしている

稜耶 「〜〜〜〜っ」
蒼志郎「大丈夫だよ。そんな心配しなくても、俺はお前しか見えてないから」
稜耶 「ほんとに…?」

蒼志郎を見上げる

蒼志郎「あぁ。どんなに巨乳が目の前にあっても、どんなに俺好みなキューティーな人でも
    稜耶がいるとそんなものどうでもよくなる」

キスをする蒼志郎

稜耶 「そ、そう…」

真っ赤になる稜耶

蒼志郎「妬いてくれたんだと分かっただけで俺はまた稜耶にのぼせ上がっちゃうんだぞ〜」

抱きしめる蒼志郎

稜耶 「バカ……」
蒼志郎「よし!俺は明日も都に怒られるぞ!」

押し倒す

稜耶 「えぇ!?」
蒼志郎「部屋には返さないっ!」
稜耶 「ちょっ!蒼し──あぁっ…」

ベッドに埋まる二人

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・居間

夜中、階段を静かに下りてくる
月明かりが窓から差し込んでいる
階段を下がりきると、立ち止まってそこを眺める

稜耶 「……」

蒼志郎『稜耶』

笑って名前を呼ぶ蒼志郎がソファにいるのを見る
が、一瞬で消える

稜耶 「……ぅっ…」

泣き出す稜耶

稜耶 「…うぅ……っ…」

吹き抜けの廊下から物音がする

稜耶 「っ……?」

見上げると都が稜耶に気づいて急いで階段を下りてくる
稜耶の傍に行くと肩を抱く

都  「稜耶様?どうなされたのです。何か言われたのですか?」

心配そうに顔を覗き込む都
首を振る稜耶

稜耶 「違うんだ…」
都  「怖い夢でも見られましたか?」

微笑んで聞く都
首を振る稜耶

稜耶 「もうここには蒼志郎の影が無い……」
都  「……」

驚く

稜耶 「だんだんと薄くなっていってるのは分かってた。
    そうなることも分かってた。
    でもこんなに早く無くなってしまうとは思わなかった……」
都  「稜耶様…」
稜耶 「ここにはもう蒼志郎の香りはしないんだ……。
    もう嫌だ。これ以上蒼志郎がいなくなってしまうのは嫌だ…」
都  「……」

都、ストールを肩にかけてやる

都  「稜耶様、もう終わりにしましょう。あなたが我慢なさることないんです。
    まだ二階には蒼志郎様は居ますもの。
    あの方達にはもう出て行ってもらいましょう」
稜耶 「……っう……」
都  「大丈夫ですよ。都が何とかいたします」

肩を抱いて二階に上がる

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・寝室

ベッドに寝かせる都
稜耶、目を閉じる

都  「早朝、お話をして分かってもらえなければ警察を呼びましょう。
    それで終わりです」

何も答えず眠っている稜耶

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・寝室(回想)

蒼志郎の寝室に入ってくる稜耶

稜耶 「蒼志ろ──…」

蒼志郎、拳銃を持っている

蒼志郎「あぁ、稜耶。どうした?」

微笑みながら拳銃をベッド横の戸棚に入れる

稜耶 「都が…ご飯できたって……」
蒼志郎「あぁ、行こうか」
稜耶 「それ、どうしたの…?」
蒼志郎「ん?あれは護身用。何かあった時のためだよ」

蒼志郎、稜耶の傍に行き肩を抱いてドアを開ける

稜耶 「狙われてるの?」
蒼志郎「いいや?不貞な輩から稜耶を守ろうと思ってね」

笑う蒼志郎

稜耶 「物騒だなぁ…」

稜耶、笑う蒼志郎を見て呆れる

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・廊下

朝、吹き抜けの廊下に藤次、峯子、辰巳、怜亜がいる
蒼志郎の寝室を開ける

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・寝室

ベッドで眠っている稜耶
物音に目を覚ます

稜耶 「都……?」
藤次 「残念。違うよ」
稜耶 「!…どうしてここにいるんだ!」

稜耶、飛び起きる

峯子 「そろそろ話を受け入れてもらおうと思ってね。あんたが中々出てきてくれないから
    こっちから来てやったのよ」

笑いながら中に入ってくる

稜耶 「それ以上中に入るな!!」

血相を変えて叫ぶ
その声に一瞬たじろぐ四人

怜亜 「何よそんなに大きな声だして。あなたが出てこないから悪いんでしょ?」
辰巳 「さぁ、そろそろ俺達の言い分に納得してもらわないと…」

歩み寄ってくる

稜耶 「は、入るなって言ってるだろ!ここは…ここは嫌だ…
    ここは駄目だ……蒼志郎が…いなくなる…嫌だ…嫌だ……」

頭を抱える稜耶

峯子 「何をぶつぶつと。やっぱり頭がおかしいんじゃないかしら」
藤次 「まぁ、なんと。こんないい部屋で寝ているとはね。
    ただの男娼が」

笑いながら近づいてくる

稜耶 「嫌だ、嫌だ。蒼志郎がいなくなる。蒼志郎、助けてよ。
    蒼志郎。蒼志郎」
辰巳 「ほら、さっさと来な」

辰巳の手が稜耶の肩に触れる

稜耶 「っ!」

その瞬間ぱっと顔を上げると
ベッドの傍の戸棚に行って拳銃を手に取る
手が震えている

怜亜 「なっ!そんなもの!!」
藤次 「お、落ち着け…何も無理やり取ろうってわけじゃない。
    話をしようと我々は言っているだけじゃないか。な?」
峯子 「そうよ。そんな物騒なもの、こっちに向けないでちょうだい」
辰巳 「ほ、ほら。落ち着けよ…」
稜耶 「出て行け!今すぐここから出て行け!!」

泣き叫ぶ稜耶

峯子 「だ、だから私たちはただ話を──」
稜耶 「お金なんか!お金なんかいらない!それで蒼志郎が戻ってくるなら!
    全部お前らにくれてやる!蒼志郎を返せ!」

泣いている

藤次 「なっ、何を馬鹿なことを言ってるんだ。兄さんはもう死んだんだぞ」
稜耶 「蒼志郎……助けて…蒼志郎…」
辰巳 「おい、ぶつぶつ言ってないでさ。ホラ」
稜耶 「助けてよ…蒼志郎……」
怜亜 「ちょっと危ないんじゃない?」
稜耶 「助けて……」

蒼志郎『何かあったらいつでも俺のところに来るんだぞ。必ず助けてやるから』

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・稜耶の寝室(回想)

ベッドで泣いている稜耶
ドアが開く

蒼志郎「稜耶」
稜耶 「ぅっ……ひっく…そう、しろう?」
蒼志郎「どうした?」

傍に来て抱きしめる

蒼志郎「怖い夢でも見たのか?」
稜耶 「うん……」
蒼志郎「それで一人で泣いてたの?」
稜耶 「うん……」
蒼志郎「そうか。稜耶」

顔を上げる稜耶

蒼志郎「どんなことでもいい。どんなに真夜中でも、稜耶が悲しかったり、怖かったり。
    一人でいるのが嫌になったり。そんなときはいつでもいいから俺のところに来い」
稜耶 「え…?」
蒼志郎「何かあったらいつでも俺のところに来るんだぞ。必ず助けてやるから」

笑って抱きしめてやる

稜耶 「蒼志郎……」
蒼志郎「俺がお前を守ってやるよ。だからいつでも俺のところにおいで。
    一人で泣いてるんじゃない。俺が慰めてやるから」
稜耶 「…うん」

蒼志郎に抱かれながら安心して笑う

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・寝室

一瞬ふわっと風が舞う

稜耶 「……蒼志郎…」

稜耶、顔を上げる
それに一瞬驚く四人

藤次 「な、なんだ。幻覚でも見てるのか…?」
稜耶 「助けて…」

どこか空を見ながら拳銃を握りなおす

峯子 「ちょ、ちょっと…」
稜耶 「今行くから……」

こめかみに銃口をあてる稜耶

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・都寝室

都、人の声に目を覚ます

都  「っ…!あ、頭が…痛い…」

額を押さえながらベッドを出る

怜亜 「何考えてるの!?」

蒼志郎の部屋から聞こえてくる声

都  「稜耶様…!」

急いで部屋を出る

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・廊下

走る都
蒼志郎の部屋のドアが開いたままになっている
部屋に入ろうとした途端銃声が鳴り響く

都  「……」

戸口で中の光景を見て言葉をなくす

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・寝室

ベッドに仰向けになって倒れる稜耶
頭から血が流れ、真っ白なシーツがどんどん赤く染まっていく

都  「りょ、うや……さま…」

ゆっくりと近づいていく都
言葉をなくしている四人

都  「稜耶様……起きてください…」

稜耶の体を揺する

都  「稜耶様…?……起きてください……」
藤次 「お、おいやめろ…もうそいつは…」

都の肩に手を掛ける

都  「触らないで!!」

手を払って涙を流す都
稜耶の手を取る

都  「出て行ってください……もう十分でしょう…お願いだから…出て行ってください…」
藤次 「……」
峯子 「でも…」

都、稜耶の頬に伝う涙跡を拭いてやる
その様子を見て誰からとも無く部屋を出て行く

都  「稜耶様……ごめんなさい……許して……」

手を握って泣き続ける都

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・寝室

シーツを新しいものに変え、その上に稜耶が寝ている
ベッドの傍で稜耶の顔を見ている都

都M 「お二人はそれはそれは仲睦まじく、とても幸せに暮らしておりました。
    私もお二人のお傍に仕えることが何よりも幸せだったのです。
    あの時何故、稜耶様がご自身で命を絶たれたのか、私には分かりません」

ベッドの上の稜耶、笑っているように見える

都M 「ただ、稜耶様はとても幸せそうに見えました。
    残された私はお二人がどうか、どこかでまた幸せに暮らしていますようにと
    お祈りするしかできませんでした」

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・墓地

蒼志郎の墓
蒼志郎の名前の横に稜耶の名前がある

都M 「願わくば、私もそちらに向かうときには
    またあのお二人のお世話をさせていただきたいと、そう思うのです──」

墓地を去っていく都

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・居間

ソファでじゃれている蒼志郎と稜耶
そこへ都がお茶を運んでくる

三人で笑っている









おわり