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No.001「華の叫び」                                

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了司M「私がまだ十二歳の頃に交わした約束は、ただ桜の花を見るというちっぽけなものだった。
    その約束は、春が訪れる前に実現できないものになってしまったが、
    未だに庭の桜の木を見るとあいつのことを思い出す。
    とても美しく、檻越しに見たあの優しい微笑みを」

御付 「了司(りょうじ)様?また庭の桜をご覧になっていたのですか?」
了司 「あぁ。暇だからな」
御付 「蕾が出るのはまだまだ先でしょうねぇ。これだけ寒いとなると、今年は遅いかもしれません」
了司 「いや、毎年このくらいだ。直に蕾がつくさ」
御付 「そうですか?」
了司 「昔、そう教えてもらった。厳しい冬は必ず終わる。春はいつも通りに訪れて、
    薄紅に色付く蕾がついたと気づいたときにはもうほころんでいるだろうと。
    そうして何度も廻るのだと」
御付 「ふふ、そうですね。私も気が付くとこんなに歳を取ってしまいました」
了司 「何を言う。お前はまだ若いだろう。
    さて、こんな所で油を売っている場合じゃないな。父上に見つかれば怒られる」
御付 「はははっ、そうですね。私も怒られます」
了司 「そうだ、今度の襲名式の着物、何とかならないか?あれでは派手すぎる…」
御付 「奥様の最後のご注文ですよ?」
了司 「しかしな…」

了司M「まだ寒さの厳しい冬のことだ。
    寂しい枝に薄紅の嵐が見えたのは、幻だろうか。
    叫ぶ様に泣いたあの日も遠い昔となった今、私は明日この家の頭首となる──」
 
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No.002「今いる場所」
                               
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しー 「歩(あゆむ)さー、結局明日行くのかよ」
歩  「えー?」
しー 「飲み会ー。行くの?」
歩  「えっと……」
しー 「行きたいの?」
歩  「うーん…」

歩M 「手を伸ばせば容易く届いてしまう距離。そんな場所に立っている。
    しーくんの手は、ただブラブラぶら下がってて一度もこっちに伸びてはくれない」

歩  「僕が行ったらしーくんどうすんの?」
しー 「あぁ?質問に質問で返すのか?」
歩  「質問に質問で返して質問してるじゃん」
しー 「あー!もう分けわかんねぇ!ははっ」
歩  「ふふっ」
しー 「でー?行くの行かないの」
歩  「……」
しー 「歩?」
歩  「しーくんが行かないで欲しいんだったら行かない」
しー 「え?」
歩  「言ってよ。行かないでって」
しー 「それは……」

歩M 「チャンスをあげるのに、どうして踏みとどまるのかな。
    どうしても縮まらない距離。
    僕たちはこうしてずっと今いる場所から動けない」
 
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No.003「接続できません」
                               
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悠里 「……」
PC 「接続を拒否されます」
悠里 「……」
PC 「接続を拒否されます」
悠里 「……」
PC 「接続を拒否されます」
悠里 「くそ……」

悠里M「アイルが眠りから醒めなくなった。
    システムに異常は無い。すべて調べつくした。
    何度やっても、何をしても、アイルは俺に反応してくれない」

PC 「接続を拒否されます」
悠里 「なんでだよ……起きろよ…」

悠里M「たったの一言だ」

悠里 「謝るから…嘘だって言うから…」
PC 「接続を拒否されます」

悠里M「最後は一人だなんて言葉。信じてくれなくてよかった。
    お前が望むなら一緒に逝ってもいい。
    だから人じゃないことを気に病まないでくれ」

悠里 「アイル……お前がこんなことしても俺はずっと一人だぞ!
    人間相手なんかいらない!お前だけで十分だ!
    変な気使うんじゃねぇ!」
PC 「……ピ────」
悠里 「……」
PC 「Please become happy with human. 」
悠里 「アイル……」
PC 「……」
悠里 「アイル!!」
PC 「接続できません」
悠里 「え……」
PC 「接続できません」
悠里 「嘘だ……」
PC 「接続できません」
悠里 「あぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあぁぁぁ!!」
PC 「接続できません。接続できません。接続できません──」
 
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No.004「真夜中の会話」
                               
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翔  「森江(もりえ)さんさー。お酒飲んでないでしょ」
森江 「えっ?」
翔  「まぁ俺としちゃーさ、仕事だから代行頼んでくれんのは嬉しいんだけど」
森江 「……」
翔  「でもそろそろ潮時かなぁって」
森江 「本当に飲んできたんだ。仕事の付き合いで…」
翔  「うん。まぁいいんだけどね」
森江 「君を指名することが迷惑なら別の人に…」
翔  「嘘つき。別の人なんか指名しないでしょ」
森江 「どうして」
翔  「だってそうしたらこんな嘘つかなくてよくなるから」
森江 「だから!」
翔  「そろそろ言ってくださいよ」
森江 「な、なにを…」
翔  「代行運転なんかじゃなくって、俺に会いたいから迎えに来てくれって」
森江 「な……」
翔  「森江さんに頼まれたら俺どこでも迎えに行っちゃうんだけど」
森江 「そんな…」
翔  「っと、着きましたよ。どうします?」
森江 「え…?」
翔  「このまま駐車して俺は帰ります」
森江 「……」
翔  「帰らないで欲しいって言ってくれれば俺は帰りません。
    でもいつもの様に金払ってさよならならもう俺はあなたの代行は引き受けません」
森江 「どうして…」
翔  「だから潮時なんですよ。そろそろ辛くて」
森江 「……」
翔  「森江さんがどうとも思ってないんだったらただの迷惑でしょ。だから俺は消えますよ」
森江 「……君の運転が…」
翔  「え?なに?」
森江 「君の運転が一番落ち着くんだ!酔いが回った体には…一番……」
翔  「だから?」
森江 「か、帰らないでくれ……」
翔  「ホント、素直じゃないですね」
森江 「……」
翔  「まぁいいや。どっちみち仕事なくなってももう困らないから」
森江 「えっ?ちょっ──」
翔  「覚悟しておいてね。俺しつこいよ?」
 
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No.005「ずっと傍にいてよ」                             

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那智 「ん……なぁ」
輝夜 「なんだもう起きたのか」
那智 「お前がぎゅうぎゅうするからだろ」
輝夜 「夜中はそなたがぎゅうぎゅう抱きしめてくるがな」
那智 「そ、それは俺の意思じゃない…」
輝夜 「そうか、那智(なち)は誰かに操られているんだな」
那智 「このバカグヤ」
輝夜 「またそのような名で!」
那智 「あーもういい!」
輝夜 「なんだ言ってみろ。私への愛の囁きか?」
那智 「呆れるくらい馬鹿だなお前」
輝夜 「馬鹿馬鹿と……」
那智 「んーもういいよ。なぁお前のこの匂いってどっから匂ってくんのー?」
輝夜 「匂い?」
那智 「うん。…くんくん……いい匂い」
輝夜 「さぁな。気にしたことも無い」
那智 「へぇ。なんかお香っぽいの。シャンプーは俺と同じだからそれじゃないだろ?」
輝夜 「しいて言えば私の美しさが香っているのではないか?」
那智 「……」
輝夜 「なんだその顔は」
那智 「せーっかく褒めてんのにこれだもんなー」
輝夜 「何か可笑しいか?」
那智 「もういい。ホラ、起きるから手離して」
輝夜 「嫌だ。また学校へ行くんだろう?」
那智 「そうだよ。今日は文化祭の授賞式なんだぞー!タダ券楽しみ♪」
輝夜 「仕方ないな…」
那智 「あ、お前絶対外出るなよ!俺帰ってくるまでどっか行ったりしたら怒るからなっ!」
輝夜 「どこへも行かないさ」
那智 「……嫌に素直だな…」
輝夜 「ふふっ。ほら、学校へ行くのだろう?さっさと支度をしろ」
那智 「分かってるよ!」

那智M「文化祭の後、輝夜(かぐや)は答えをあやふやにして優しく笑って逃げた。
    その意味がなんとなく分かるのが悔しくて、俺は絶対こいつを離さないって決めたんだ。
    こんな馬鹿なこいつの傍にいたいから。
    輝夜が答えてくれなくても、ほんとの気持ちは傍にいたいと思ってくれてるって信じてる─」

 
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No.006「ヤメテ、それ以上言わないで」                     

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恵  「ちょっと待ってちょっと待って」
春  「えー?どうしてー?」
恵  「今日何回目?」
春  「そんなの覚えてないよ」
恵  「もう慣れたけどさ、あんたなんでそんなにいつでもどこでもキスしたがるの?」
春  「嫌なのー?」
恵  「嫌じゃないけど。気になる」
春  「うーん。こう、気持ち高ぶると押さえられなくなるんだよね」
恵  「はぁ?」
春  「恵(けい)ちゃんのこと好きだなーって思うでしょ?」
恵  「うん」
春  「そしたらもう気持ちが溢れてくるのね?」
恵  「はぁ」
春  「あー。ちゅって」
恵  「……」
春  「ふふふ」
恵  「行動に出るって事?」
春  「うーん。そうかな?」
恵  「俺がその場にいなかったらどうすんの」
春  「写真とか恵ちゃんの私ぶ──」
恵  「あー!もう!それ以上言うな!」

 
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No.007「バスタブに沈められた身体」

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えい 「やだエッチ」
なみ 「何あれ。どういうこと」
えい 「何がー?っつか寒いからドア閉めろ。風邪ひく」
なみ 「……。荷物なんかまとめてどうすんの」
えい 「うーん。出て行くしかないよねぇ」
なみ 「…それでなんで風呂?」
えい 「最後に綺麗な体して出て行きたいじゃん」
なみ 「…本気かよ」
えい 「うーん。荷物纏めちゃったし。解くのも面倒だし」
なみ 「もう好きじゃねぇの?」
えい 「ううん、好きだよ。なみちゃん可愛いし」
なみ 「じゃあなんで」
えい 「だって昨日言ってたじゃん。嫌なら出て行けって」
なみ 「あれは!」
えい 「嫌なんだよね。なみちゃん俺のことずっと気にしてんじゃん。疲れるでしょそういうの」
なみ 「あれはそういう意味じゃなくて…」
えい 「大丈夫だよ。別れるとか言わないから。ただ一緒に暮らすのはもう止めにしましょ」
なみ 「やだ!」
えい 「我侭だねぇ。ははっ」
なみ 「誰だってやきもちくらい妬くだろ普通!気にしちゃわりぃか!
    っつか喧嘩途中の口から出任せの言葉なんか本気にすんなよ!」
えい 「だーってさ。最近まじで疲れてんでしょ。俺なみちゃんだけとか無理だよ?」
なみ 「……」
えい 「知ってるでしょ。会ったときからそうだったじゃん」
なみ 「…でも俺のこと好きなんだろ?」
えい 「うん好き。大好き」
なみ 「だったらそれでいいよもう!なんでもいいから!」
えい 「……うーん」
なみ 「分かった!じゃあもういい!」
えい 「……」
なみ 「シャンプーだけは置いていけ!あいつ連れて行ったら末代まで呪ってやる!」
えい 「はははっ。それは譲れないなぁ」
なみ 「だったらここにいろ!」
えい 「なみちゃん…」
なみ 「わかったな!」
えい 「……。なみちゃーん。寒いから閉めてってよー」
なみ 「風邪ひいて倒れて水ン中で沈んでろハゲ!」
えい 「俺禿げてないんだけどー?」
なみ 「これから禿げろ!」
えい 「ハハハッ。もう仕方ないからもうちょっといてあげるよ。シャンプーは渡せないから」
なみ 「……」
えい 「荷物解いといてね」
なみ 「……」

えいM「風呂から出たら荷物だらけだったリビングはいつも通りに綺麗になってた。
    シャンプーは足元に纏わりついてにゃあんと鳴く。
    いつもの喧嘩はこれで終わり」

 
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No.008「その一言で生きていけるの」

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秋吉 「峰岸(みねぎし)くん。明日何時からこれるんだっけ?」
峰岸 「え?あ、はい。いつでも大丈夫です…」
秋吉 「いつでも?あーじゃあ一番でもいいの?」
峰岸 「はい」
秋吉 「そっか、じゃあどうしようかなぁー。峰岸くんいっつも頑張ってくれてるし…」

峰岸M「秋吉(あきよし)先生の手伝いを始めて二週間になる。
    ただのファイル整理だけど、僕はそのちっぽけな時間が幸せでしょうがない。
    でもこの手伝いは冬休みの間だけで、もうこの仕事はなくなってしまう…」

秋吉 「もう明日で終わりだしねー」
峰岸 「そう、ですね…」
秋吉 「うん。じゃあやっぱり一番で。いいかな?」
峰岸 「はい。わかりました」
秋吉 「それじゃあ今日はもういいよ。ありがとね」

峰岸M「秋吉先生の笑った顔と、柔らかい声が好き」

秋吉 「また明日」

峰岸M「この一言で僕は生きていける」

峰岸 「はい。また明日よろしくお願いします」
秋吉 「……」
峰岸 「お疲れ様で…」
秋吉 「待って!」
峰岸 「え?」
秋吉 「やっぱり明日最後にしよう!」
峰岸 「え?あ、はい…大丈夫ですけど…」
秋吉 「最後だから…その」
峰岸 「?」
秋吉 「終わった後、どこか食事にでも……」
峰岸 「え?」

峰岸M「また明日がまだ続くかもしれない」

 
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No.009「君が残したメモ」                             

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哲平M「ちーが仕事の合間を縫って会いに来て、メモだけ残してまた行ってしまった」

哲平 「忙しいんなら電話ででもいいだろ……」

哲平M「そのメモにはこう書かれていた」

哲平 「7時に絶対来るからこれだけしてて…?」

千尋M「その1、ご飯を食べる」

哲平 「先に食ってていいのか…?」

千尋M「その2、お風呂に入る」

哲平 「はぁ?」

千尋M「その3、ベッドに入る」

哲平 「寝るぞ…?」

千尋M「僕が来ても玄関まで迎えに来なくていいからね!」

哲平 「どういう意味だ…?」

哲平M「そうして俺は言われたとおりベッドに寝ているわけだが…」

哲平 「やばい…眠い……」
千尋 「てっちゃんッ!」
哲平 「おぅわっ!!いつの間に!」
千尋 「僕のメモの通りにしてくれてたんだねっ!愛してる」
哲平 「ちょっ……んっ…何っ!?急に抱きつくな!」
千尋 「だって準備しててくれたんでしょ?僕またこの後お仕事なんだ。だから早く…」
哲平 「はぁっ!?おまっ!やるための準備かよっ!?」
千尋 「だってこの間てっちゃんお腹減ったとかお風呂入ってないとか言って怒ってたじゃん」
哲平 「お前なぁ……」
千尋 「もういいから早くっ!時間ないのっ!」
哲平 「えっ、ちょ…あぁっ……」

哲平M「この後迎えに来た恵ちゃんに怒られる破目になる……」

 
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No.010「砂浜で捕まえて」            

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恵M 「皆で今日は海水浴に来たのだが──」

女A 「お一人ですかー?」
女B 「一緒に遊びません?」

恵M 「春が逆ナンされてる……!!」

春  「あ、恵ちゃーん」
女A 「あ、こっちのお兄さんもカッコイイー」
女B 「遊びましょーよ〜」
女A 「お幾つですか〜?」
恵  「ふふっ。幾つに見える〜?」
春  (恵ちゃん、その返しがおじさんだよ……)
女B 「えぇーっと、25歳!」
恵  「ホントにっ!?」
春  「よかったね」
女A 「こっちのお兄さんは27くらい?」
恵  「……!!」
春  「ふふふっ」

恵M 「よ、44歳が……!!27!?」

恵  「負けた……」
春  「?」
千尋 「パパ〜!」
女A 「あれ?お子さんいるんですか?」
女B 「なんだ〜…って!!」
千尋 「あれ?パパ達ナンパされてるの?ずるーい!」

女A・B「どう見ても大人ッ!!」

女A 「……」
女B 「……」

恵M 「春はやっぱり吸血鬼なんじゃないかと思う今日この頃。世の中間違っている……」

哲平 「あんたも38でしょうが……」

 
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No.011「目が覚めたら忘れて」                             

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播磨 「なぁ、蓮(れん)。俺がいなくなったらどうする」
蓮  「いなくなったら? また?」
播磨 「ははは、あぁ。また急にいなくなったら」
蓮  「そうだなぁ、今度こそ許さない」
播磨 「そうか」
蓮  「なんだよ? またおば様に何か言われたのか?」
播磨 「ふふ……」
蓮  「播磨(はりま)?」
播磨 「なんでもないよ。ただの例え話だ」
蓮  「……そういう話は嫌いだ」
播磨 「拗ねるなって。大丈夫、俺はずっとお前の傍にいる」
蓮  「……」
播磨 「おいで」
蓮  「もう、なんだよ」
播磨 「お前は本当に暖かい」
蓮  「……播磨はなんだか冷たくなった気がする」
播磨 「そうか?」
蓮  「あぁ、前はもっと暖かかったと思う。なんだか……こう……」
播磨 「気のせいだよ。俺もお前も、何も変わらない」
蓮  「そう、だったか……」
播磨 「あぁ。ほら、もっとこっちにおいで」
蓮  「播磨……」
播磨 「……蓮。もし、もしも、気がついてしまったら」
蓮  「播磨……?」
播磨 「何も怖がらないでいい。でも、これだけは覚えておいて欲しい」
蓮  「え?」
播磨 「俺はずっとお前の傍にいる。だから、お前は光を目指して歩いて欲しい」
蓮  「……うん」
播磨 「幸せになるんだ」
蓮  「お前も一緒なんだろ……?」
播磨 「あぁ」
蓮  「変な播磨」
播磨 「さぁ、ほら。もう目を閉じて」
蓮  「うん。おやすみ、播磨」
播磨 「おやすみ」

播磨M「長い夢から目覚めるとき、辛いことはすべて忘れてしまえばいい。ただ俺は、お前の幸せを願う。
    叶うことが無かった未来の夢は、いつか終わりを告げるから。
    なぁ、蓮。お前だけは……」

 
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No.012「あなたはまだ知らないままでいい」                             

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朔哉 「う……ん……」
孝之 「朔哉(さくや)」
朔哉 「……たか、ゆき……?」
孝之 「よかった。気がついたか」
朔哉 「どうしてお前が……ゴホッ、ごほっ……」
孝之 「起きなくていい。辛そうな声が聞こえたから心配で」
朔哉 「ここから本宅まで声が聞こえたのか……?」
孝之 「あ、いや……」
朔哉 「……暇なのか」
孝之 「心配だったのは本当だ。栄介(えいすけ)さんから病状聞いたんだよ」
朔哉 「やっぱり暇なんだな」
孝之 「はははっ、俺はどれだけ忙しくてもお前が辛そうだったらここに来るよ」
朔哉 「何を言ってるんだ……」
孝之 「そんなに呆れないでくれ。ほんとのことだ」
朔哉 「……」
孝之 「さぁ、ほら。まだ宵の口だ。寝てろ」
朔哉 「宵の口……? お前寝てなかったのか」
孝之 「俺ももう寝るよ」
朔哉 「……そうか」
孝之 「ふふっ、いや、お前が寝たのを見届けてからかな」
朔哉 「っ、そんなことはどうでもいいから部屋に帰れっ。子供じゃあるまいし一人でも寝れる」
孝之 「分かった分かった。ほら、お前も寝ろよ」
朔哉 「病人をからかいにきたのか? 私は寝るからお前もさっさと本宅に戻れ」
孝之 「ふふふ」
朔哉 「……」

孝之M「相変わらず寂しい庭。しかしもうすぐ彩りが増えるだろう。その頃には……」

朔哉 「……すー……すー……」
孝之 「もう寝たのか……」
朔哉 「すー……」
孝之 「朔哉」
朔哉 「……」
孝之 「……」

孝之M「冷たい唇。病的な白さ。こうしてずるい行為でしか触れられないお前の肌に、いつか俺は触れることができるのだろうか。
    愛おしくて仕方ないお前の心に触れられたなら。
    罪を重ねる俺の手で、お前の肌にそっと──。
    今はただ、静かに眠ればいい。お前は何も知らないままで。俺はただお前を手に入れるためだけに」